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宝塚歌劇団 雪組『Lilacの夢路~ドロイゼン家の誇り~』

あらすじ

イギリスを筆頭とした市民革命の流れを受け、封建主義から民主主義へ。巨大な変化のうねりがとまらないヨーロッパ各地。

時は19世紀初頭、ドイツ連邦プロイセン王国のユンカー*であるドロイゼン家の長男、ハインドリヒ(彩風咲奈)は、鉄道事業を発展させるべく5人兄弟一丸となって取り汲んでいく。

ドロイゼン家の紋章が表す「ライラック」~”誇り”を表す花~の名にかけて、国民の生活や心が、明るく豊かになるように…

女性が虐げられていた時代の中で、夢に向かって邁進し、ハインドリヒにポジティブなパワーを与える、音楽家志望の娘エリーゼ(夢白あや)。
急進的な長兄、ハインドリヒを尊敬すると同時に、保守的な自分が露わになり、嫉妬や反発心といった本心にもがく次男、フランツ(朝美絢)。

鉄道事業が成し遂げられるまで、ドイツ国内の関税問題、運営資金不足、身内の不幸や亡き父の不穏な噂など、さまざまな壁がドロイゼン家5人兄弟の前に立ちはだかる。それぞれの壁を乗り越えると同時に、主人公始め、各登場人物も心の葛藤や迷いを乗り越え、成長を遂げていく。

*エルベ川以東の東部ドイツ地主貴族を指す言葉である。
参考:wikipedia

物語の感想~光と影~

時代背景として、ナポレオン失脚後の尾を引きずり、ドイツ国家は分裂しており、社会は貧しく不正をしなければ明日の食べものも得られない状態です。

主人公であるハインドリヒは、片田舎の地主貴族、いわゆる支配層で、最初こそ「兄弟5人で一丸となって鉄道事業を成功させたい!」という気持ちで突き進んでいましたが、道の最中様々な社会の「陰」と向き合います。

若くて情熱的で夢に向かって一直線なハインドリヒを「光」とするならば、目標はあくまで同じでも堅実で保守的路線を取りたい、でも最終的には兄の意見についていくうちに置き去りにされた本心をいくつも抱え込む次男、フランツが「陰」(作者は二人を光と陰の対比構造では表していませんが)

ちなみに、このフランツの複雑な心境を繊細に丁寧に演じた朝美絢さん。
二番手男役スターとして完熟したタイミングで、このようなお役を見事に演じられていました。また朝美さん演じるフランツについては、次回以降に書かせて下さい。

その他も五男であるヨーゼフの死(陰)が鉄道事業成功への想いを強くさせ(光)、父の黒い噂(陰)は発端となり、新しい仲間との出逢い(光)に繋がる。
終盤は時間の関係か、駆け足で進んでいく印象ですが、このような出来事を通して事業成功の本当の目的=ドイツの人々や自分の愛する人を幸せにする、と自覚した瞬間にそれまで壁となっていた出来事がするすると取り払われ、スムーズに動き出します。

「自分の中にある、熱いものを呼び起こせば未来は開ける」
「魂に光を与えれば情熱、勇気、信じる心が育つ」

悩み、もがき苦しんでも、挫けず向き合うことで心の中にある「熱いもの」を呼び起こすきっかけにさえなる。

光と陰は表裏一体。

その事を頭にいれ、時に立ち止まりながらも、自分の心や周りの人と丁寧に向き合いながら理想を掲げる素晴らしさを教えてくれる作品でした。


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