2つで十分ですよ

ブレードランナーの名セリフ「2つで十分ですよ」を生で聞いた。

喫茶店の階段を下は55才、上は65才ぐらいの、絵に描いたようようなおばさん方7人が上がって来たのだ。

何の話をしていたのかは知らない。私の5段ほど下で、手前のパーマをかけたオランウータンのようなおばさんが、貧乏な魔女のようにのっそりと階段を登るおばさんに
「2つで十分よー、じゅーぶん!」
と大きな声で言うと
「そうよ、重いわよ」
と魔女が私の横を通りながら返事をした。その後ろから、そういえば昔、カバゴン先生っていたなあと45年ぶりに思い出したほどそっくりなおばさんが、壁に向かって言った。
「3つなんてどうすんのよ」
私とおばさんたちはビルの間を通り抜けるドローンのようにすれ違った。

何が2つで良くて3つだとどうしようもなくなるのか、知りたかったが、後ろで喫茶店のドアは閉まってしまった。

あの人たちは、私が現実で聞くなんて思いもしなかった、好きな映画と同じセリフを聞き、目の前が雑居ビルの汚れた階段がまばゆく見えたほど神々しい気持ちになったとはまったくわからないだろう。

神様ありがとう、今日はいい日です、と私は階段を下りながら思ったのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?