見出し画像

いろ衣都つむぎ ~絵画への憧れ~

わたしがほんものの絵画(キャンバスに描かれた大きなもの、複製でないもの)を見たのは9歳、小学3年生のときでした。
当時、金沢へ回ってきた日展に両親が行くことを決め、家族4人で(父、母、姉、わたし)車で出かけたのです。だいたい車で1時間くらいです。
わたしたち家族が、美術の展覧会へ行くこと自体初めてでした。
父も母も、べつに芸術に詳しくもなく、関心もない人たちでしたが、このときは、なぜか見たくなったのだそうです。
しかし、わたしはまだ9歳。芸術などわからないだろうし、飽きてぐずりだしたら困るな、という危惧もあったらしいのです。姉はもう中学生だから、大丈夫だろうと。
けれども、その危惧は、会場に着いたとたんに、雲散霧消するのですが。
わたしはずらりと並んだ絵を見て、心のなかの特別な扉が開いたと思いました。なんて素晴らしいのだろう。なんて美しいんだろう。わたしは狂喜乱舞しました。会場を走るのはいけないことですが、わたしは走ったり、歓声をあげたり、はしゃぎ続けていました。
すごいものが目の前にある。それだけはわかるのです。
日展は、洋画、日本画、彫刻、工芸、書と、たくさんの数の展示があります。わたしはすべてを、ハイテンションで見ました。
ここにあるのは、ほんものだと思いました。
学校で描いているわたしたちの絵なんか、比べものにならない。わたしは、学校ではうまく絵が描けなかったし、図画の時間はきらいでした。
家では、暇さえあれば、チラシの裏に絵を描いていたのですが。絵を描くのは大好きでした。でも、学校では描けなかったのです。
わたしは、あんな絵を描く人というのは、どんな人なのだろう、と、家に帰ってから、つくづく思いました。
でも、わたしはだめだ。
絵なんて描けないもん。
わたしは、ため息のでるような、芸術の世界に、自分は決して関わることはないだろうと思いました。

それから、47年経って、わたしは絵本を出版しました。
絵が大好きなのに、ずっと、わたしは下手だから、と想いを閉じこめてきたのですが、やっぱり、好きなものは好きなのです。
いまは、やれることは、すべてやろうと思っています。
あの、展覧会場を走りまわっていた、9歳のわたしに、この未来は嬉しいんじゃないかなと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?