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果てしない流氷 1

流氷を見たら、なにか変わるかな、と思っていました。
テレビや写真でしか見たことのない白い世界。
北海道で暮らすことになるなんて、思ってもみなかったし、北の海に憧れる気持ちはあったけど、そんなに遠くへ行けるわけがないと思っていました。

流氷。氷の海。
どんなものなんだろう。
わたしは想像もつかずに、紋別へ行くバスに乗っていました。紋別は北海道の東のほう、オホーツク海に面しています。札幌からはバスで四時間四十分かかります。長い旅です。
夫が紋別で、流氷を割って進むガリンコ号に乗ろう、と言いだしました。それでわたしは流氷を見ることが現実になったのです。

紋別で、わたしたちは一泊して、次の朝、ガリンコ号に乗りました。
ガリンコ号は、流氷の海を割りながら進む船で、一時間ほど海をぐるっと回って帰ってきます。
乗客はデッキから流氷の海を見ることができます。

ものすごく寒いと聞いていたので、わたしはダウンコートにニットの帽子、手編みのスヌードに防寒ブーツ、毛糸の手袋と、隙のない格好をしていました。
でも、その日はとてもいいお天気で暖かく、気温も-4℃と、札幌とそう変わらなかったのです。そのことはとても幸運でした。

海は船に乗るときには、港でもう薄い氷が張っている状態でした。
船に乗ると、わたしはデッキに立ち、海が見られる位置につき、手すりをつかんで、胸を高鳴らせていました。

船が動きだします。
つめたい風が頬に当たりますが、気になりません。
これから始まる航海に心がいっぱいになっていたからです。
海は白く、果てしなく続いています。
白い海。ああ、冬の色だなあ、と思います。冬は白いです。雪も白。吐く息も白。そして、厚い氷も白なのです。
白い海面が大理石のように模様を描いて目の前に広がっています。
わたしは、太陽が見える側にいたので、海が陽の光にきらきらと輝くのをみることができました。
白い氷が輝きを増して、まるで向こうまで歩いて渡れるかのようでした。

                           2へつづく  

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