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果てしない流氷 2

ガリガリッと、流氷を砕く音が聴こえます。
流氷はそのくらい厚いんだなと思いました。こんなにも広い氷の世界。この氷の下、どんな魚たちが息をしているのだろう。アザラシもいるのだろうか。
氷に閉ざされた世界で、なにを見、なにを思っているのだろうか。

ガリッ、とガリンコ号が、大きな流氷に乗りあげて、止まってしまいました。流氷はそのくらい硬いのです。何回か、氷を砕くために前後に動きました。
しばらく待っていると、やがてまた船は動き出しました。沖へ行くほどに、海は白くなっていきます。白さは厚さなのでした。
ガリンコ号がガリガリ削らないと、進めないほどの氷が海上にはある。どれほどの厚さでしょう。冷たさでしょう。
でも、そういった海を人は見に行こうとします。無理に氷を割って進もうとします。
人の見られるものには限りがあるとはいえ、人の限界を超えたものを見たい気持ちも働くものなのでしょう。わたしには、自然の魅力がそうさせるのだと思えました。それくらい、自然には神秘の力が宿っているのだと思います。

白い海の上にはとても青い空が広がっていました。
青い空と白い海は見事な絵を描き、わたしの胸に焼きつきました。
ガリンコ号も帰りに向かいます。
今度は太陽が反対側を照らすことになります。途端に寒さが倍になったようでした。太陽というものは、こんなに暖かいのだと、いまさらのように思いました。
氷の海をずっと見ていたかったけれど、寒さに負けて、船室へ入りました。夫がそこでココアを飲んでいました。
わたしもいっしょに、ココアを飲み、海上の見事さを話しました。

でも、船室の窓から見える景色もまたいいものでした。
海面が近いので、水のなかを浮き沈みするさまが見えて、それも美しい光景でした。
わたしと夫は並んで座り、窓の外を見ながら、氷が薄くなってきた、戻ってきたんだなと思いました。
白い白い海は、はるかな遠くになりました。遠く遠くには年中氷が融けない世界がある。そこまで行きたいとは思いません。行かないほうがいいところもこの世にはあります。わたしはここまででいいのです。
薄氷の張る港へ船は戻ってきました。
わたしは名残惜しい気持ちで船を降りました。

船を降り、ガリンコ号と海を背景にして、夫とわたしの写真を撮りました。
わたしと流氷はそこでお別れでした。よい旅でした。白い氷の世界を少しだけ、垣間見た時間でした。わたしはあの白い海をきっとずっと忘れないと思います。
もとから海は好きだけど、青い海のほかにも、海はあるのだということを、これから先は忘れないと思うのです。


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