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なかほら牧場発、これからの食と農を考える③

アニマルウエルフェアについて


アニマルウエルフェア(AW)とは「動物福祉」とか「家畜福祉」と訳される。
日本の畜産技術として一般化している「工業型畜産」の対極にあるものである。
日本の畜産業では鶏はB5のスペースのケージに押し込まれ1棟の鶏舎に何千、何万羽と密飼いされている。
700~800Kgもある乳牛は1坪にもならないスペースにスタンチョという鉄製の首枷やチェーンなどで繋がれ立つ座るしか身動きの取れない環境で飼われている。豚は100日以上の妊娠期間「妊娠ストール」という全く身動きのできない檻に入れられる。
日光浴も運動もできない環境で飼われた家畜は当然病弱になったり、鳥インフルエンザなどの家畜伝染病の遠因ともなる。病気に対処するため抗生物質が使われる。日本全体で使われている抗生物質の約半分以上は家畜用として使われており、1頭当たりの使用量は米国の倍以上と言われている。
また、「霜降り」としての評価の高い和牛の約6割の内臓は、過剰に栄養価を高めた配合飼料の多給によって病変して廃棄されている。

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今度の東京五輪の畜産物食材の調達基準が不十分であると米国の自転車選手ら10名のアスリートが大会組織委員会に抗議し、改善要求の声明を出したと報じられたこともあったが、いつの間にか雲散霧消してしまった。スポンサーとなっている大手マスコミの忖度があったのではないかとその報道姿勢に疑念を抱く。
且つてのロンドン五輪では放牧卵のみが使用されケージ飼いはおろか平飼いの卵も禁止された。豚肉についても英国では妊娠ストールは法律で禁止されており、当然妊娠ストールフリーの豚肉が使われた。リオ五輪でも卵は放牧か平飼いが使われ、そのうえ地鶏が生んだもの、且つ有機飼料で育ったものという条件付きだった。豚肉は大手食品関連企業が自主的に妊娠ストールを廃止して対応したという。
名だたる大手ファーストフードチェーンの数社は既にAW基準に合致しない畜産物は仕入れないと宣言している。英国は2012年からすでに鶏のケージ飼いは法律で禁止し、オランダは牛の繋ぎ飼いは2020年から法律で禁止された。
日本の工業型生産方式は欧米、インド、南アフリカなどで次々と廃止されているのでありこの潮流が世界的流れとなっているのである。この世界的潮流を無視し続ける日本の畜産業界は一刻も早く対応しなければ消費者の信頼を確保することは難しくなるだろう。

中洞 正(ナカホラタダシ)
1952年岩手県宮古市生まれ。酪農家。
東京農業大学農学部在学中に猶原恭爾(なおはらきょうじ)先生が提唱する山地酪農に出会い、直接教えを受ける。卒業後、岩手24 時間 365 日、畜舎に牛を戻さない通年昼夜型放牧、自然交配、自然分など、山地に放牧を行うことで健康な牛を育成し、牛乳・乳乳を開始。設計・建築、商品開発、販売まで行う中洞式山地酪農を確立した。
著書に『おいしい牛乳は草の色(春陽堂書店)』、『ソリストの思考術 中洞正の生きる力(六耀社)』、『幸せな牛からおいしい牛乳(コモンズ社)』、『黒い牛乳(幻冬舎)』など。




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