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『不思議なクニの憲法』から6年目の憲法記念日に思う

憲法記念日をどう過ごそうかと考えて、いくつかの選択肢の中から、<リベラル日本研究会>が主催する東京・世田谷区の立憲民主党区議会議員・中山みずほさんの『ジェンダーと格差』と題したオンライン講演会に参加した。

素晴らしかった!
どう素晴らしかったかというと、まずは中山みずほさんの明るく聡明なキャラクターで、講演がとてもわかりやすく、楽しく聴けたこと。その生き生きとした話ぶりは、学者や法律家の講演とひと味違って、彼女が仕事のなかで日々触れている地域住民の生活に根ざした問題や、彼女自身の働く母親としての実感などをもとに語る「ジェンダー問題」と「憲法24条」が、「イデオロギー」でも「法律」でもなく、リアルな現実として、聴く者の心に届いてきたからだった。

地域の生活者の声を聞いている自治体議員

たとえば、具体例を挙げてみよう。
去年の春、国会で当初議論されていた「特別定額給付金」が<収入の減った家庭に一律30万円>という与党提案があった時、給付金の受給権者が『世帯主』だったことに大きな疑問を持って反対できたのは、「夫が受けた給付金から貰うなんておかしい」という、地域の女性たちの、そして自分自身の、妻としての実感があったからに違いない。
そんな女性たちが声を上げ、野党の強い反対で結果的に「国民全員に一律10万円の給付」と決まった経緯を聞いても、地方議会では女性議員の果たす役割がいかに大きいかを理解することができた。そして、そういう現場レベルの闘いが国会中継を見ているだけでは、なかなか知ることができないということも。

コロナ禍で明らかになったジェンダー格差

もうひとつ、内閣府の男女共同参画局がおこなっている「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」の説明のなかでは、DVや女性自殺者の急増、非正規雇用の問題、家事・育児・介護などの無償ケアの問題点についても具体例を示して語られた。そんな彼女の話を聞いて痛切に感じたのは、国のしていることを私たち国民が正しく理解するには、報道がまだまだ足りないのではないかということだった。

そして、今日の講演会に参加してのいちばんの収穫は、地方議会には中山さんのような女性議員が何人もいて、若い彼女たちが同じ区内にとどまらず、横につながりを持ち、情報交換をし、互いに励まし合いながら共に活動されていると知ったことだった。

自民党憲法改正プロジェクトチームが公表した「論点整理」

本題の「憲法24条」に関しては、自民党改憲草案の恐ろしさを私たちが理解するために、遡って22歳のアメリカ女性ベアテ・シロタ・ゴードンさんが書かれた草案や2004年に自民党が公表した憲法改正プロジェクトチームの「論点整理」の資料を示して語ってくれたことも興味深かったので、ぜひ自民党が目指す改憲の本質を知る意味で、以下のPTの「論点整理」を読んでいただきたい。

国際人権規約と自民党改憲草案の違い

まずは現憲法の24条と自民党改憲草案を比べてみよう。

〔家族関係における個人の尊厳と両性の平等〕
第24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

一方、自民党改憲草案の24条は家族に対して以下のように規定している。

家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

このように、自民党の改憲草案では家族に「義務」を課しているのに対して、日本も批准している国際人権規約の10条では、

第10条
家族に対する保護・援助。婚姻が両当事者の自由な合意に基づくこと。産前産後の母親に対する保護。働いている母親に対する休暇の付与。児童・年少者に対する保護・援助。

と、家族は保護され援助されるべきものとして、義務でなく「権利」について明記している。つまり「国際人権条約と自民党改憲草案とは正反対の主張をしている」と中山さんは言う。
ところが私たちは、自分が日々を生きることに精一杯で、なかなかこうしたことに関する知識を得るために学ぶ余裕がなく、届く情報も少ない。また昨今のマスコミ報道には、政府に忖度しているのでは?と疑いたくなるものも多い。
中山さんの講演を聞いた人のなかに「情報が十分得られていないのに、政治を変えたかったら選挙に行けと言うのは横暴である」という意見があったのも頷けるような気がする。
皆が感染症の蔓延を防ぐために自由を奪われている有事の時に、なぜ今国民投票法の改正をしなければならないのか?
「緊急事態宣言」を受け入れざるを得ない状況のなかで、自民党の改憲案でいちばん受け入れてはならない「緊急事態条項」を、皆が「やはり必要ではないか?」と思わされているようにも見える。そんな国民を騙すような動きには、せめて気づいている者が警戒しなければならない。

女性議員をいかにして増やすか

私がドキュメンタリー映画『何を怖れる フェミニズムを生きた女たち』を発表した2015年には、まだ一部の人たちの間でしか語られてなかったジェンダーギャップ指数の低さについては、最近はマスコミが毎日のように取り上げていることで、多くの人が知ることになった。国会議員はわずか10%という女性議員の数をなんとか増やさなければならないと考えるようにもなった。でも、それがなかなか実現しそうにないのは何故なのだろう?

「政権交代をしないとジェンダー格差は埋まらない」と言う中山さんの所属する立憲民主党は、東京都連の女性議員の数が4割いるというのも、今日の講演で初めて知ったことだ。ところが、私たちのような一般市民の耳に、選択的夫婦別姓制度について積極的に発言しているのは、なぜか稲田朋美などの自民党議員の声のほうが目立って、立憲民主党が熱心にジェンダー平等に力を入れていると見えないのは、私だけだろうか。
中山さんは、また「特に地方では、本人が立候補したいと思っても、最後の最後で家族の反対にあって諦めてしまう」のだと女性が立候補する難しさを説明してくれた。彼女のように、誰に勧められたのでもなく自分から手を上げて立憲民主党に近づいていったという女性がもっと増えるには、第二党の立憲民主党こそ党首か幹事長に女性を担いで党のイメージ・チェンジをはかるときではないか?

リベラルの結束なくして、政権交代はない

私は5年前の2016年に『不思議なクニの憲法』を発表した後、全国の自主上映会を主催してくれる人々と一緒に自民党改憲案の怖さについてコツコツと訴えてきたものの、ある時期からそうした活動から逃げ出したくなっている自分を意識しないわけにいかなかった。

ここでもう一度その理由を考えてみると、自分が憲法映画をつくろうと思い立った動機について振り返らざるを得ない。
動機は「護憲運動のため」というよりも「憲法を国民同士が政治的な思惑を離れたところで議論する場をつくりたい」といった程度のものだった。
いや、護憲派と改憲派の議論は難しくても、せめて私の映画を通じてリベラルな人びとの間では、憲法について語り合い、意見を戦わす場が作れるのでは…と楽観的に考えていた。
ところが映画を作るなかで、また広めるなかで私が実際味わったものは、リベラルを標榜する者たちの間にこそある、感情的な「対立」だった。
今日講演をしてくれた中山みずほさんは「私は憲法の話をする時、9条には触れないようにしているんです。9条の話をすると必ず喧嘩になるから」と言っていた。
私が「もうフェイドアウトしたい」という気持ちになった原因も、そこにあったと思っている。
自分は運動家ではない。議論のなかの対立を乗り切れるような知識も言葉も持っていない。私はこんな対立の中で苦しむよりも本来の表現者に戻ったほうがいいのだと思うようになり、あえて、全く政治的なところとは無縁なテーマの小説を書くことに逃げたのだった。(底にはジェンダー問題をしのばせているにしても、読者にはあくまでエンターテイメントとして読んでもらう作品にして)

そんな自分の変身に、忸怩たる思いでいたとき、中山みずほさんのような若い人の話を聞いて「もう私のような高齢者が出る幕はない。この人たちに任せればいい」と素直に思うことができて、嬉しかった。
中山さんは「9条のことは話さないことにしている」と言いながら、「自民党は、自衛隊を憲法に明記しても今と何も変わらないと言いながら、それを入れてしまえばこれまでより一歩も二歩も海外での軍事行動が可能になるのです。集団的自衛権を憲法上でも認めてしまうことになります。緊急事態条項を認めてしまえば、政府が独断で決めたことを、国会は事後承諾するしかないんですよ」と、私が日頃危惧していることをそのまま言ってくださった。

でも、そんな彼女の言葉には頼もしく頷くことができても、それが立憲民主党だけの考えか、国民民主党も一緒なのかが、私たちにはわからない。立憲民主党と国民民主党は政権交代のために選挙協力に前向きだと聞くが、改憲問題に関する両党の違いはどうなのだろうか?
憲法について違う考え方の二党が、本当に一緒に選挙を戦えるのだろうか?
できるだけ多くの野党統一候補を決めて選挙に臨み、政権交代を果たしたいという思いだけは伝わってきても、「連合」と共産党の関係でどのような調整をしているのかもわからない。政府の感染対策に関する説明が足りないのと同じくらいか、それ以上に国会第二党の説明が足りない。

今日、中山みずほさんの講演を聞いて、24条だけで結束できたらどんなにいいだろうと思った。でもコロナ禍の中だからこそ、自公維は必ず憲法に「緊急事態条項」を加えるべく、選挙の争点にしてくるだろう。もちろん9条も今のままにしておけるとは思えない。
野党の考えていることがこんなにも伝わってこないのはは、マスコミが報道が少ないという理由だけだろうか?
本気で政権交代を目指すなら、永田町の人たちだけで決めようとせず、もっと中山みずほさんのような地方議員一年生の現場の生の声を聞き、もっと国民に政権交代後の青写真を語ってほしい。そんなことを改めて考えた憲法記念日だった。

最後に、私自身が一歩引いたからと言って、自分のつくった映画が、もう色褪せた過去のものになってしまったとは思っていない。憲法改正の問題を学びたいと考える人には今後も必ず役立つ作品と思っている。また、私はこれからもSNSなどで、一国民として政治に関心を持ち、個人的な発言も怖れずしていくつもりである。

またこの投稿は、中山みずほさんのオンライン講演会に参加して、簡単にメモしたことと自分の記憶をもとに書いたもので、ご本人の許可も得ていない。
中には司会をされた明日の憲法を考える会の伊藤朝日太郎さんの発言を、中山さんの発言と混同して書いた部分もあるかもしれない。何か間違っていたことがあれば直接ご連絡ください。

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