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コーチング脳で『がん医療』を考える 14

最近、「コーチングを勉強しています」と色々なところで吹聴していると、
「がん医療にどう役に立つのですか?」
「どのようにコーチングを医療に活用しているのですか?」
などと質問されます。
この質問にパッと答えるのは難しいので、少し実例を上げていってみたいと思っています。

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▼抗がん剤治療のメリットがない「がん患者さん」
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「抗がん剤治療を希望しています」とのことで、腫瘍内科に紹介となった方のお話しです。

ある日、担当医から「進行がんで手術はできないので、抗がん剤治療しかないでしょう」と説明をうけた80歳を少しオーバーしたくらいのおばあちゃんが紹介となってきました。
一人暮らしですがADL(日常生活動作)は自立しているので、抗がん剤治療の実施は可能と思われますと紹介状には書いてありました。
その方は診察室に入ってくるなり、私にこう言いました。
「私、これ以上長生きしたくないの!」
「だから、抗がん剤治療も受けなくていいと思っています」


進行がんに対して抗がん剤治療を行う場合の目的は、「延命」になることが多いです。
抗がん剤治療を受けることにより、がんの進行を抑えて、その分「延命」につなげるという治療です。
これ以上長生きが不要ということは、副作用を伴う抗がん剤治療を行うメリットがないということになります。
初めて会った医者にいきなり告げるわけですから、冗談ではなく、言おう言おうと考えてきた結果だと思いました。
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▼コーチングを習う前の僕なら・・
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コーチングを習う前の僕であれば、このような患者さんの場合、
●治るわけではない治療にもかかわらず、それなりに副作用があるから、メリットを感じていないんだろう
●きっと副作用で大変な目にあった人を知っていて、自分もそうなったら嫌だなとか思っているのかも
●人間も80歳を過ぎれば、それ以上長生きしたいって思わないのかも・・
など、これまでの経験で「抗がん剤治療を希望しない」人たちが語っていった理由を勝手に思い浮べて、きっと同じような理由で受けたくないのだろうなと解釈していたと思います。
そのうえで、勝手にその人を理解した気になって、
“本人が抗がん剤治療を希望していないのだから、それを尊重しよう”
「そうですよね!よくわかります!」
「抗がん剤治療って大変ですものね。」
「副作用でかえってつらい思いしたりするかもしれないし」
「それで『がん』が治ればいいけど、そういうわけでもないので」
「抗がん剤治療を受けたくないって考えても当然だと思います」
“ほら、僕ってあなたのことよく理解しているでしょ!”って具合に自己満足に浸りつつ
「抗がん剤治療を受けないとしても、がんの経過はみていく必要がありますので、紹介元の担当医とどのようにしていくかキチンと相談してくださいね」
と、あっさり診察を終わりにしていたと思います。
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▼理解したと思ったら、そこで試合終了です!
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コーチングの先生は、事あるごとにこう言って我々生徒を諭します。
「わかった気になるな、知ろうとせよ!」
「『共感』とは、『だよねぇ~、わかるぅ~~』ではなくて、『わからないから、もっと教えて!』だ」

コーチングを習う前の僕は、自分のこれまでの経験から
「この人は『こういうこと』が言いたいのだろうな」って、患者さんが話している最中に理解した気になって、そう考えてしまった後は相手の話はほぼ聞かず(耳に入らず)に
「結局、あなたの知りたいことは『これ』ですよね。」「では、今からそれについて話しますね」
という感じで、先に先に対応していました。
「誰もかれも、みんな考えることは一緒だな。こういう時はこうするとうまくいくから、今回もこうしよう。」
「また、この話だ。みんな同じことを言うんだよなぁ~。もうわかったから、この話はこの辺で切り上げてもらって、別の話に移ろう」ってな具合ですね。

相手のまとまりのない話を聞いていると診察時間が長引いてしまうから、こちら主動で話を進めていかないとダメだという気持ちもあったかと思います。

ベテランになればなるほど、このような考えを強く持つようになるのではないかと思っています。
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▼よくよく話を聞いてみたら・・・
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先ほどの患者さんの話に戻ります。
コーチングを学んだ僕は、
「どうしてこの人は長生きしたくないなんて言うのだろう?」という疑問がわきます。
(当然の疑問かもしれませんが、以前の僕はそのような理由には興味がなく、どのような理由にせよ、いろいろ考えた結果、そう判断したんだとしか考えていませんでした)
疑問がわけば、質問をします。
その答えはこうでした。
「夫にはずいぶん前に先立たれた。子供はいない。頼れる親戚も近くにはいない。ここ数年は一人で過ごしてきた。これ以上生きていてもやりたいこともない。あとは身辺整理する時間があれば十分。」
まあ、何となく納得できそうな理由ではありますが、ここで「わかった気」になってはいけません。
本当に頼れる人はいないのですか?お友達とかいるでしょ?とさらに聞いてみます。
「友達も同じくらい年寄りで、いろいろ病気を持っているから頼れない。私が一番元気だったくらいよ。」
「親戚も、いるにはいるけど、少し離れたところなの。死んだときに色々手続きはしてくれると思うけどね。」
さらに聞いてみます。本当にもうやりたいことはないのですか?
「旅行も最近まで友達といろいろな場所行ったから、どうしても行きたい場所があるわけでもないし」
「趣味として家庭菜園やっているけど、それも収穫できるかどうかわからないから、今年は植える気もないわ」
どれもこれも、「そうかもしれない」と思うような答えが返ってきます。

この時の面談は、ここまで聞いて時間切れになってしまったので
確かに現時点では抗がん剤治療のメリットはあまりなさそうですね。
また何か治療に関して相談したいなどあれば、いつでも声をかけてください。
と言って終了しました。

本人が「受けたくない」と思っている治療を無理矢理受けさせるように仕向けることがコーチングではありませんから、結論の着地点が悪いということではないのですが
せめて、患者さんに新たな気づき(自分ってこう考えていたんだ!などの)が得られるように関われれば良かったなぁ、コーチングをがん治療に応用するのは難しいなぁ~って思いました。

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▼後日談
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さてさて、そのような、僕的にはあまりうまくコーチング的な関わりができなかったと考えていた面談に後日談がございます。
1週間ほどした後、再度抗がん剤治療に関して相談したいとのことで、お話しする機会をいただきました。
お話しを聴いてみると
・遠方にいる親戚に相談してみたら、できる限りのサポートをしてくれると言ってもらえた
・友達にも話してみたところ、送迎など可能な範囲で手伝ってもらえそうだ
・自分には何もないと思っていたけど、そうでもなさそう
・もう少し長生きしてみてもいいかなって思った
とのことで、一度抗がん剤治療にチャレンジしてみたいとうお話しであった。
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▼まとめ
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抗がん剤治療したくないという患者さんを、コーチングを応用することで「うける」方に変えられたというお話しではありません。
語弊があると思いますが、僕的には抗がん剤治療を受けても受けなくてもどちらの結論でもかまわないのですが、納得感を持って結論を出してほしいと考えています。
キチンと納得してから結論をださないと、例えば「抗がん剤治療は受けない」という結論を出したが、実際に痛みなどの症状が出てきた際に「やっぱりあの時に受けておけば良かった」「自分の選択は間違いだった」という後悔の念を抱いてしまうかもしれません。
ですので、重大な結論を下すためには、自分自身を納得させるだけの根拠があった方がよくて、その根拠が強ければ強いほどいいと思いますが、
何となく根拠が不明確のまま結論に到達してしまうことがザラにあります。
抗がん剤治療に関しても、副作用が辛そうだからとか、治るものでもないしとか、やらない理由は簡単に見つけることができます。
そのように簡単に見つけた理由に飛びついて、それ以上深く考えないで結論を出してしまうと、あとで「あの時に選択は失敗だった!」など後悔の元になりかねないので、
がん医療にコーチングを応用することで、一つ一つの選択により納得感をもってもらえればいいなぁ~って思っていますというお話でした。

今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

“コーチング脳で『がん医療』を考える”シリーズ14はいかがでしたでしょうか?
何か参考になることがありましたら嬉しいです。
次回以降もどうぞよろしくお願いいたします。


この文章は、宮越大樹さんの著書『人生を変える!「コーチング脳」のつくり方』(ぱる出版)(https://www.amazon.co.jp/dp/4827212783/)を教科書として、『がん医療』にコーチングを応用する方法について考えておりますので、まだ本書をお読みでない方は是非とも読んでみてくださいませ。

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