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がんと『検査値の見方』①

抗がん剤治療をしていると、かなりの頻度で血液検査も受けることになると思います。
いわゆる「採血」というものですね。
抗がん剤治療が毎週であれば、受診する都度(週1回)「採血」されて、
うまく1度で採血できればいいのですが、段々と血管も頑固?になってきて、なかなかうまく針が血管に当たらず、何度も刺されたり、ようやく刺さったと思っても、血液がうまく引けてこなかったり・・・

基本的には診察前に採血室で採血をすることになるので、診察時に、この「採血」が「負担である」、「大変だった」、「時間がかかった」などなど不平・不満を訴えていく方はとても多いです。

そんな大変な思いまでして行った「採血」=血液検査で何がわかるのか?
きちんと把握しておりますでしょうか?

「そのくらい基本中の基本だよ!ちゃんと知っているよ!馬鹿にするなよ!」って方は結構少ないのではないかと僕は考えています。

僕は毎回、血液検査の結果を印刷して患者さんにお渡ししているのですが、
当院の血液検査の結果表は、患者さんに渡すことを想定していないのか、検査項目がアルファベットの略語でしか記載されておりません。
TP=総蛋白
Alb=アルブミン
T-bil=総ビリルビン
BS=血糖値
この左側のアルファベットしか表に記載されていないということですね。
毎日幾度となくこの表を見ている我々にはなんの問題もありませんが、患者さんにとっては、自分自身の結果なのに、多くの部分が解読不能なものだと思います。
そもそもその様にアルファベットの略語しか印字されないシステムが悪いというご指摘もあるかと思いますが
「血糖値」はわかる人も多いかと思いますが、「総蛋白」とか「ビリルビン」とか『日本語』で書いてあっても、それが何を意味するのか?といわれると
大半の方が「よくわからない」となってしまうのかなって思います。

わからない場合はインターネットで調べてみよう!って考えて検索してみますと
例えば、肝機能検査として検診などでもよく検査される項目として「AST(GOT)」「γGTP」
日本予防医学協会(https://www.jpm1960.org/exam/exam06.html)では下のように解説されています。
■AST(GOT):基準値 0~40 
心臓・肝臓・筋肉・腎臓などのさまざまな臓器に存在する酵素です。これらの臓器が障害を受けると、この酵素が血液中に放出され、値が高くなります。

■γGT:基準値 110~360
蛋白質を分解する酵素の1つです。肝臓や胆道に病気があると高値を示します。アルコールの影響で高値になりやすく、常習飲酒による肝障害の指標になります。

「AST(GOT)」から解説(?)していきます。
そもそも(GOT)って何?って思いませんか?
GOTは、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼの略称で、長らく日本で使用されていましたが、国際的には
AST=アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
とされているため、10年くらい前からASTの方を使用しましょうとなりました。
じゃあ「AST」とだけ記載すれば良いんじゃないの?と考えますが
そこは「大人の事情」や「高度な政治的な判断」があるのかないのか?僕にはわかりませんが、未だに「GOT」が併記されていることが多いようです。

話が大幅に逸れましたので、元に戻します。

「AST(GOT)」が何を示すのか調べて見たら
肝機能を調べるものかと思ったら、「心臓・肝臓・筋肉・腎臓などのさまざまな臓器に存在する」「これらの臓器が障害を受けると値が高くなる」とか書いてあって
「あれ?オレって肝臓が悪いんじゃなくて、心臓が悪いの?」とか
筋肉?腎臓?
さまざまな臓器って、どこのこと?身体中全部悪いってこと!

「γGTP」に至っては
『蛋白質を分解する酵素』
「担当医から蛋白質をきちんととりましょうって言われているのに、なんで分解しちゃってるの?あなた(γGTP)は!」と考えたり
『肝臓や胆道に病気があると高値』
「わたしは肝臓には転移がないって聞いていたけど、もしかして転移しちゃった?見落とし?」
『アルコールで高値、常習飲酒』
「わたしがんになってから一切アルコール摂取していないんですけど!常習飲酒って失礼ね!」

調べて見たものの、逆に突っ込みどころ満載で余計に「ちんぷんかんぷん」
「もう調べるのやーめた!」
とかなってしまいそうですよね。

検査値にはもう一つ重要な点があります。
基準値です。
正常値とも呼ばれます。
検査結果の表には、見やすいように、この基準値(正常値)から外れている項目があると
基準値より高い場合には「H(high)」
低い場合には「L(Low)」 と記載されたり
カラーの場合には、高いと「赤」、低いと「青」のように色分けされたりします。

これらのチェックは、『機械的』に行われているため、基準値を「1」でも上回っていたり下回っていたりするだけで、「H」や「L」がつきます。

それがどういう意味を持つのかを知るためには、そもそも基準値(正常値)がどのように設定されているかを知る必要があると思います。
基準値とは、健康人(健常人集団)の95%の方が含まれる範囲とされています。
つまり、健康であっても5%の確率で、基準値から外れた結果がでるということです。
逆に、病気であったら必ず基準値から外れた結果が出るかというと、こちらもそうではありません。

しかも、この基準値は検査した場所ごとに異なる可能性もあります。
当院の基準値は、当院で実施した血液検査結果を基に基準値を設定していますので、僕が以前勤務した病院の基準値と結構違いがあり、転勤当初はちょっと戸惑いました。

健康人(健常人)というのも、かなり曖昧な定義だなぁ~って思いませんか?

毎日お酒をたくさん飲んでいる方でも、毎日これだけたくさんのお酒が飲めるし、それでいて体調もなんともないからオレは健康だ!という方が地域にたくさんいて
その方々を健康人と考えて基準値を設定したら、肝機能検査の基準値が高い方にずれるのは間違いないと思います。肝機能検査以外にも尿酸値だったり、コレステロール値なんかも高めになりそうです。
そうなると、普段お酒を飲まない方が、何らかの病気で肝機能障害を起こしても、基準値が少し高めになっているので、検査上は基準値範囲内となり、なかなか病気が発見しにくくなってしまう可能性があります。

では、お酒も飲まない、タバコも吸わないとかの人だけにすればいいんじゃないの?となるかもしれませんが
おそらくあえてお酒もタバコもしないという方の多くは、かなり健康意識が高い人だと思います。普段からきちんと運動したり、睡眠をきちんととったり、健康を維持するために様々な工夫を凝らしている方が多そうです。その様な方を基準にしてしまうと、すこしお酒を飲む日が多かっただけで検査値異常がでてしまい、検診で引っかかったり、何か異常があるのではないかと精密検査を受けるよう勧められたりしてしまいます。

まあ、もちろんこのようなことがないように、たくさんの工夫がなされて、ちゃんと基準値というのが設定されているのだと思いますが
結構曖昧なものでもあるので
少し基準値から外れていたからといって、あまり深刻にとらえなくても大丈夫です。
しかし、逆に基準値内だからといって、完全に問題なしと言えるわけでもないので、
いずれにせよ検査値だけを信奉するのはやめましょうね
というお話しでした(つづく)。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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