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がん治療を成功させる秘訣は「余白」

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▼診断を受けた後、焦らないでください。
▼考える時間はあります。
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がんの診断は、誰にとっても衝撃的です。
「少し疲れているだけかな?」と思っていたら、診察の結果、大きな病院への紹介を受け、その後、がんの診断を聞かされる。
こんな状況は決して珍しくありません。

診断が「がん」だと分かった瞬間、特に進行したステージだと分かると、頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなることもあるでしょう。
そして、「手術はできない」と告げられ、「抗がん剤治療を受けますか?」といった選択を急に迫られることもあります。
このようなとき、焦りや不安から、すぐに「抗がん剤治療しかないなら、それをやるしかない!」と思うこともあるかもしれません。

ですが、ここで覚えておいてほしいのは、治療を始める前に、”焦らなくても大丈夫“ということです。

紹介された腫瘍内科を受診するまで、数日から1週間の時間があることが多いです。この時間は、「がんが進行してしまうのでは?」という心配で頭が一杯になるかもしれません。また、抗がん剤の副作用への恐れや、他に治療の選択肢がないのかと考え、不安になるのも自然なことです。

しかし、この時間は、焦らずに情報を集め、自分自身が納得できる選択をするための大切な時間です。

とはいえ、ある患者さんは、がんの勉強をしようと考え図書館に行ったのですが、本を開いても全く頭に入ってこないどころか、静かすぎて、かえって不安な気持ちが次から次へとわいてきてしまい、結局ほとんど何も調べる事ができずに帰宅してしまったそうです。
本がダメならテレビで調べようと考え、「医療番組」を探したのですが、良い番組が見つからず、結局、見たのはコメディ番組。気がついたら、笑いすぎて涙を流していたという話もあります。
「こんな時でも、笑えるんです」
意外かもしれませんが、その数分の笑いが、その後の決断を冷静にするために役立ったそうです。

腫瘍内科での初回の診察時には、30分から1時間をかけて、がんの進行状況、抗がん剤治療の目的、治療のスケジュール、他の選択肢について丁寧に説明します。
しかし、多くの患者さんは、最初の診察の際に「頭が真っ白になって、何を言われたのか覚えていない」と振り返ります。
だから、もしそうなってしまっても、安心してください。
「あ、やっぱり自分だけじゃなかったんだ」と思ってください。

治療を始めてから、「もっと良い選択肢があったのではないか?」、「副作用の軽い治療法はなかったのか?」、「本当に治らない病気に苦しい治療を続ける意味があったのか?」と感じる患者さんもいます。だからこそ、今の段階で、自分の気持ちを整理し、治療についてしっかりと納得してから進むことが大切です。

あなたが焦らずに、十分に考え、自分にとって最善の選択をするために、私たち腫瘍内科医やスタッフは全力でサポートします。
どうか一人で悩まず、質問や不安なことがあれば遠慮なく相談してください。
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▼焦るなと言われても、無理だよ!
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進行がんの診断を受けたとき、焦るのは自然なことです。
「抗がん剤治療でがんを完全に治すのは難しいですが、進行を遅らせることはできます」と聞くと、「これからどうなるのだろう」と不安や恐怖を感じるかもしれません。
こうした感情を持つことは、誰にでも起こりうることです。
人間の脳は、大きなストレスやショックに直面すると、一時的に思考や判断力が低下します。
これは、脳の「扁桃体」という部分が強く働き、恐怖や不安の感情を引き起こすためです。
同時に、冷静な判断を司る「前頭前野」という部分の働きが鈍くなるため、しっかりと考えたり計画を立てたりすることが難しくなります。
この反応は「戦うか逃げるか(fight or flight、闘争・逃走)反応」という、危険に対して素早く反応するための本能的な仕組みです。
進化の過程で発達し、私たちの先祖が危険を避けるために役立ってきました。
ですから、がんの診断を受けて「頭が真っ白になる」のは、体が自然に反応している結果なのです。
つまり、「焦るなと言われても、無理だよ!」なのです。

しかし、がん治療を選択する際に、この状態のままでいると、重要な情報を見逃してしまう可能性があります。
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▼まず、時間的な「余白」を持とう!
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がんの診断を受けたとき、多くの方が「時間がない」と感じ、焦ってしまうのはとても自然なことです。特に「命に関わる病気」という言葉を聞いた瞬間、自分の残された時間が急に短くなってしまったように感じ、「貴重な時間を一秒でも無駄にできない」と思ってしまいます。しかし、焦ることが必ずしも良い結果を生むわけではありません。

実際に、がんは診断される数年前から体内に存在していることがほとんどです。たとえ今日診断されても、昨日と今日でがん自体の状態が大きく変わることはほとんどありません。ですので、抗がん剤治療を始めるかどうか、焦って即決する必要はないことを理解してください。医師や専門家はそのための時間を提供してくれるはずです。

■「急いては事をし損じる」
例えば、がんの進行が急激に変わることは少ないので、2週間ほどの期間を使って、落ち着いて考えることが重要です。この期間中に、「できること」「考えるべきこと」を整理しましょう。以下の5つが、その時間にできる代表的なことです。

①自分が置かれている状況を整理する
  診断結果や今の体調、治療の選択肢を一度整理し、冷静に状況を把握しましょう。

②わからないことをリストアップする
  病気や治療法に関して、今自分が理解していないことは何かを書き出します。

③自分で調べられることを調べる
  インターネットや書籍を活用し、信頼できる情報を集めます。ただし、あまりに多くの情報に触れると、かえって混乱することもありますので、バランスを大切に。

④担当医に質問するための準備をする
  わからないことや心配なことを次回の診察までにまとめておき、しっかり医師に質問できるように準備しましょう。

⑤誰のサポートが受けられるかを確認する
  家族や友人、医療ソーシャルワーカーなど、相談できる相手をリストアップし、どんなサポートを受けられるか確認しておくことも大切です。

■不安な気持ちがわき上がるのは自然なことです
これらを考えている間にも、「こんなことをしている場合ではないのではないか?」という不安や焦りが頭をよぎるかもしれません。しかし、それも自然な感情です。不安を感じたときには、まず深呼吸をしてみましょう。あるいは、少し散歩をしたり、音楽を聴いたりするなどのリラックス方法を取り入れることも効果的です。

がんの治療選択は重大な決断ですから、ゆっくりと考える時間を持つことが、後悔のない選択につながります。焦らず、自分自身のペースで、今できることに取り組んでいきましょう。
あなたには、そのための時間があります。
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▼まとめ
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がん治療を成功させる秘訣は「余白」にあります。
今回は、まず一つ目の余白として、「時間的な余白」についてお話しさせていただきました。
次回は、「心の余白」についてお話ししていきたいと思っています。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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