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がん治療のプロとは誰?

がん治療はどんどん進歩してきています。
これからも益々速度を増して進歩していくのだと思っています。
長い間「死の病」として恐れられていた「がん」も、今では半数以上が治る時代になってきていますし、2035年には「がん」の大半が治癒可能になると、未来の医療年表(奥真也著)の表紙に記載されています(https://www.amazon.co.jp/dp/4065211379)。
とはいえ、現在、特に進行した状態や再発した「がん」を治す(治癒させる)のはなかなかに難しい状況であります。
治せないまでもなるべく長期間、がんの進行を抑えるべく、手術や放射線治療、多種多様な抗がん剤など、たくさんのがん治療が駆使されており、
同じ種類のがんであっても、個人個人最適な方法や治療の順番が異なってきたりして、治療がとても複雑になってきていることは間違いありません。
そのような「がん治療」が複雑化、細分化してきている現在において、我々腫瘍内科医は、時に主導的にがん治療(この場合は抗がん剤治療になることが多い)を行ったり、どのような治療方針が良いかなどのアドバイスを行ったりしながら、
がん治療の「プロ」として認識してもらえるように頑張ってきた経緯があります。

とはいえ、
進行がんと診断され、どのようながん治療がよいかと腫瘍内科に紹介されてきた患者さんに対して、
ただでさえ、前の担当医から進行がんだと告げられてパニックになっている中
上述の様な複雑ながん治療の説明をされても、パニック状態が増長されるだけなのか?
多くの方から、「先生に全てお任せします」と言われてしまいます。
我々腫瘍内科医はがん治療、特に抗がん剤のプロを自負していますから、「お任せ」と言われれば、じゃあこれにしましょうという提案ができなくはないのですが
選択した抗がん剤の種類によっては、その人が絶対に避けたかった副作用がでてしまうこともありますので、完全にお任せされてもその方の満足がいく治療が提供できるかは甚だ疑問です。
例えば、「脱毛」も抗がん剤治療で起きやすい副作用です。
抗がん剤治療イコール「脱毛」というイメージの方も多いかもしれません(ドラマの影響?)。
その様な先行したイメージがあるためか、「脱毛」の副作用がありますよというと、「仕方ないです」とお答えになる方は結構多いのですが、とはいえ、いざ本当に髪の毛が抜けてくるとショックを受ける方が多いのも事実です。
全ての抗がん剤で「脱毛」が起こるわけではない(ゼロではないかもしれないが、確率が低い抗がん剤はある)ので、もしかしたら「脱毛」を避けて抗がん剤治療を行うことが可能かもしれません。
しかし、担当医に抗がん剤の選択を「お任せ」した場合、多くの場合ガイドラインで推奨度の高い方法が選択されるのだと思いますし、副作用よりは効果を得ることの優先度が高くなるのだと思います。
その患者さんの抗がん剤治療を受ける目的の優先度1位が「治療効果」なのであれば、概ね満足感がえられるのかもしれませんが、
僕の経験上、比較的多くの方が「現在の生活を維持したい」を高い優先度で考えており、抗がん剤の副作用で生活の維持が脅かされることをできる限り避けたいと考えている。
つまり、抗がん剤の効果が多少落ちても、生活の維持を優先したいと考えている方は結構多い印象ですので、その様な考えの方に効果優先の治療を選択してしまうと、満足度がとても低くなってしまう可能性があります。

何が言いたいかというと、
腫瘍内科医は抗がん剤のプロかもしれないが、
あなたは、『あなたの人生のプロ』ですよね?
プロはプロ同士、お互いの専門分野に関しては譲らずにキチンとお話しをしましょうということです。

何十年と『自分』をやってきて、『自分』は何を大切にしているのか?
何は許せる(妥協できる)けど、何は許せない等々
本当のところは『自分』にしかわかりません。
『自分』にもわからない部分はあるかもしれませんが、少なくとも今日昨日会ったばかりの担当医よりはよく知っていることでしょう!

進行がんに対するがん治療は、多くの方にとって、人生最後の大仕事です。
がん治療開始から最後(最期)の時間までの経過(過程)が、その方の人生の集大成といっても過言ではないと僕は考えています。

そして、命がなくなることが避けられないという状況なのであれば、ほとんどの方が、できる限りよい最後(最期)を迎えたいと考えています。

『よい最期を迎える』とは、ホントの最後の瞬間だけ取り繕えばいいというものでは決してないと考えますし
その様に考えていたら、『よい最期』を迎えることはきっと難しいだろうなと僕は考えています。
つまり、『よい最期』を迎えるためには、がん治療開始から最期の瞬間までの過程をよいものとする必要があり、その結果として『よい最期』がおまけとしてついてくるのではないかと思っています。

結局のところ
進行がん(治癒が難しい状態のがん)に対する『がん治療』において、『プロ』は誰かという質問の僕的な答えは
『当事者である患者さん』 かな、って僕は考えています。
この場合の『プロ』とは、がん治療という一大プロジェクトの一番の責任者は誰か?という意味です。

そして腫瘍内科医は、抗がん剤のプロとして、アドバイスをしたり相談に乗ったり、時には外科医や放射線科医、緩和治療医を紹介するという役割にすぎないと認識しています。

自分は自分の人生のプロなのだ!
がん治療は、自分の最後の大仕事だ!
自分はこの大きなプロジェクトの一番の責任者なのだ!
という自覚を持っていれば
担当医に「全てお任せします」ということが的外れであることがご理解いただけると思いますので
お互い、それぞれの『プロ』として、協力し合い、最高のがん治療ができるといいなと思っていますというお話しでした。

今回も最後までお読みいただきましてありがとうございます。
また、次回もお会いできるのを楽しみにしております。


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