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コーチング脳で『がん医療』を考える 11

コーチングはコミュニケーションです。
そして、「がん治療」においてコミュニケーションはとても重要な役割を担っていることは間違いありません。
今回は、コーチングを行う上でコーチが大切にすべきことのお話を、がん治療医と患者さんとのコミュニケーションに置き換えてお話ししていきます。
とはいえ、がん治療に関連する皆が心得ておくとコミュニケーションが円滑になり、がん治療の成功率も高くなりそうだと思いましたので、是非ご家庭や職場などで行われる日頃のコミュニケーションに活用いただけたなら大変嬉しいです。

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▼患者の心理的安全性を確保する
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心理的安全性は医師―患者コミュニケーションのスタート地点と言えると思います。
特に抗がん剤治療においては、血液検査データやCTなどの画像検査の結果以上に、患者さん自身が感じている不調や違和感の方が正しいこと、重篤な副作用の前兆であったりすることを多々経験します。
それは患者さん自身も些細なこと過ぎて自覚していなかったり、報告するほどではないと考えていたりしてしまう場合もあり、後々詳しく聞くと、「実はあの時からそんな症状があったんだ」と言われることもしばしばです。
担当医としては、「もっと早く言ってくれれば・・・」という気持ちになったりしますが、これは患者さんに非があるわけではないことも多いです。
つまり、患者さんとしては報告したかったが、担当医が「せかせか」忙しそうにしていたり、「いらいら」機嫌悪そうにしていて、とても話せる雰囲気ではないということもあるでしょう。
また、担当医がそのような態度をとっていないという場合でも、これまでの会話から「こんなことをいったらバカだと思われるのではないだろうか?」とか、「こんな大したことないことを話題に出したら怒られるのではないか?」などを心配してしまい、話さないと言うこともあるのだと思います。
実際、このようないわゆる「忖度」してしまった場合の方が多いのではないでしょうか?
こういったことを回避する方法として、患者さんの「心理的安全性」を確保する必要があるというわけです。

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▼そもそも心理的安全性とは?
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心理的安全性と言う言葉は、2016年にかのGoogleが「心理的安全性の高いチームは成果を出しやすい」という研究結果を発表してから、俄然注目されるようになった言葉で、聞いたことがある方も多いと思います。
しかし、聞いたことがあっても、内容を勘違いしている方も多いようです。
僕も字面から「精神的に安心=笑顔で接する」、「家庭のような厳しくない(優しい)環境」、「友達のような仲良し関係」みたいなイメージをしていましたし、「Googleってそんな雰囲気で仕事しているんだ!やっぱりすごいなぁ~」と思っていましたが、どうやらそうではないようです。
心理的安全性とは「リスクがとれる環境」で、それが「メンバー間で共有されている」状態を指すとのこと。
そしてこのリスクとは、「無知」「無能」「邪魔」「ネガティブ(消極的)」だと思われる不安のことを言うようです。
・「こんなことも知らないの?」と思われるのではないか?
・「こんなこともできないの?」と思われるのではないか?
・わたしのせいで、先生忙しそうだし、他の人も待っているから早く切り上げないと
・「否定している」「批判している」と思われて嫌われてしまうのでは?
このような不安を感じたとしても、不安のため行動に移さないのではなく、行動してみるというリスクが許容されていて、メンバーは「ナイスチャレンジ!」と評価してくれる環境が心理的安全性がある環境というようです。

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▼診察室内を「リスクをとれる場」に
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つまり、将来に起こってしまうかもしれない大きなリスクを回避するために、診察室内では小さなリスクがとれる場所にした方が良いということです。
「サプリメント」を飲んでいることを担当医には黙っているヒトが多いというデータがあります。
本人は効果があると信じて飲んでいるものを頭ごなしに「そんなの意味ないよ!」とか言われたらだれでもショックだと思いますが、問題なのは実際に言われるかどうかにはありません。
医者の中にたまにはそのような発言をする方がいるかもしれませんが、大抵はサプリメントに興味があるわけではないので、「別にいいですよ」と言う医者の方が多いのではと思います。
とはいえ、患者さんとしては「それすごくいいやつだね!」とか「絶対続けた方がいいよ!」という発言を期待している可能性があり、その期待が満たされることはほぼないのが現実でしょう。
ここで言いたいのは実際にそのような発言をするかどうかは別にして、「言いそう、言われそう」と患者さんに思われてしまうこと自体がすでに心理的安全性が低い場所だということです。
「サプリメント」で重大な事態が起こることは非常に稀ですが、「サプリメント」のことが話題として出せない診察室は、そのレベルの「小さなこと」「ささいなこと」の話題も出にくい可能性があります。
逆に言うと、「サプリメント」のことも特に気にするでもなく、普通の話題として出せる診察室であれば、仮にその時点では「小さなこと」「ささいなこと」であっても、放っておくと重大なリスクにつながるかもしれないことが、話題として出てきやすくなるということです。

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▼心理的安全性を高めるために
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では心理的安全性を高めるためにどうしたらいいのでしょうか?

方法①:患者さんの目や顔を見て話す。相づちを打つ。
当たり前のことかもしれませんが、診察室では電子カルテ入力に忙しく、患者さんの顔を見ないドクターが結構いるようです。

方法②:発言する機会を均等にもつ
ドクターの中には自分の言いたいことだけを話して、患者さんの発言は最小限(「だってあの患者さん話長いんだもん。聞いてられないよ!」)と考えているヒトが居ますね。

方法③:お互いに尊重し合う
ドクターの中には自分の言うことは絶対正しく、患者(シロウト)の言うことは間違っているという姿勢の方が時々います。
また「本人には説明しても理解できないから、家族を呼んで!」という方もいますね。認知症ならいざ知らず、自分が専門用語を多用していて、理解できないと言ったりしているところをみると残念な気持ちになります。

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▼まとめ
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僕自身、診察室での心理的安全性が確保できているか?
書いていて不安になってきました。
もう一度キチンと見直して、患者さんに「ここでは何を話しても大丈夫!」という気持ちになってもらえるよう努力しようと思います。

今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

“コーチング脳で『がん医療』を考える”シリーズ11はいかがでしたでしょうか?
何か参考になることがありましたら嬉しいです。
次回以降もどうぞよろしくお願いいたします。


この文章は、宮越大樹さんの著書『人生を変える!「コーチング脳」のつくり方』(ぱる出版)を教科書として、『がん医療』にコーチングを応用する方法について考えておりますので、まだ本書をお読みでない方は是非とも読んでみてくださいませ。


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