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がんと『浮腫(むくみ)』

がん患者さんの厄介事として、比較的多く経験されるのが
『浮腫(むくみ)』ではないかと思います。

「むくみ」そのものは「がん」になる前から多くの方が経験したことがある症状だと思いますので、「むくんだなぁ~」という症状は他人(家族や医療者など)よりも自分で気がつく方が早いのだと思います。
しかし、多くの方がこれまでの経験から、むくみは「一時的なもの」とか「明日には良くなっているだろう」と考えてあまり気にもとめていなかったところ、徐々にひどくなり、ご家族が気づき、「そんなにむくんでて大丈夫なの?」と心配され、次回の外来で相談という流れが多いようです。

『浮腫(むくみ)』がひどくなると、
歩きにくい、転びやすい、重い、疲れやすいなどの症状が現れてくるようになり
さらにひどくなると、痛くなったり、感染して熱を持ったりしてしまうこともありますので
『浮腫(むくみ)』がひどくなる前にケアを開始したほうがよいと考えます。

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▼浮腫が出やすい場所
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浮腫(むくみ)は全身どこにでてもおかしくはないのですが、重力の関係で下半身、特に足の甲や前脛部(すね)辺りにでることが多いです。
がんが進行してしまい、横になっている時間が多くなると、重力の関係で背中に浮腫(むくみ)が出てしまうこともあります。
時には、肺にたまったり(肺自体のこともありますし、胸水になることもあります)、おなかの中にたまったり(腹水)します。

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▼浮腫の原因
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浮腫(むくみ)の原因は、ホント様々です。
そういってしまうとそれでお終いか、原因を特定するために多くの検査をする必要がでてきてしまいます。
心臓や肝臓、腎臓といった臓器の機能が低下してもむくみますし、ホルモンバランス(甲状腺など)が乱れてもなります。
がん自体が原因となることもあれば、手術や放射線治療が原因のこともあります。
抗がん剤治療を行っていれば、それの副作用かもしれません。
「がん」に伴って血栓ができやすくなり、その血栓の影響で浮腫がでることも時々あります。
「がん」が進行すると、栄養障害が起こってくることがあり、特に体内のアルブミンが少なくなってしまうことで浮腫(むくみ)がでることも多いです。

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▼浮腫の原因の鑑別
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このように、『浮腫(むくみ)』の原因はとても多く、何が原因かを特定するのはかなり難しいです。
また、「がん」の場合は、原因がひとつではなく、多くの因子が絡み合って起こってくることもあり、一筋縄ではいかないことも多いです。
とはいえ、ある程度原因を推定しないと、「どうする?」ができません。
そこで参考にするのが、浮腫の出方になります。
手や足の場合は、左右がありますので、両方に浮腫があるのか?片側だけなのか?はかなり重要です。
「血栓」が原因で浮腫(むくみ)が出た場合、マッサージなどでむくみを改善しようとすると、血栓が血管からはがれて血流にのって肺などに運ばれていき、肺の血管に詰まってしまう肺塞栓などを引き起こしてしまうリスクがあり、とても注意が必要です。
「血栓」が左右両方に同時に起こる可能性は少ないので、基本的には片側だけに浮腫がでます。
片側だけの浮腫の場合は、血栓がないかどうかを超音波検査などで確認してから「どうする?」を検討しています。
片側だけの浮腫で、血栓以外が原因になる場合もあります。
その代表が『リンパ浮腫』です。
体内での血液(体液)の流れは血管とリンパ管の二つがあります。
血液(体液)の90%は血管で循環しているとされていますが、10%はリンパ管を通って循環しています。
手術などでリンパ節を切除すると、いずれ迂回路(側副路)ができますが、流れが滞ってしまい浮腫(むくみ)として現れてしまうことも多いです。
乳がんの手術後、患側(手術した側)の腕がむくむことがよく知られていますが、婦人科がん(子宮がんや卵巣がん)や前立腺がんの手術後に下肢がむくんだりするのは、リンパ浮腫のことが多いです。手術だけではなく、放射線治療も原因となることがあります。

また、浮腫(むくみ)の部分を指で押したときに、多くの浮腫はへこんだまま押した痕がしばらく残ります。しかし、押したときにはへこむが、すぐに戻るタイプの浮腫があります。
主に甲状腺ホルモンが減ったことで起こるタイプです。甲状腺機能低下症の症状の一つですね。
昔の抗がん剤ではほとんどなかったのですが、最近の分子標的治療薬の中には、この甲状腺機能に影響を及ぼす副作用があるものがあり、そのような抗がん剤を使用しているときは注意が必要です。

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▼浮腫への対応
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多くの浮腫に対して、クスリで対応しようとした場合にはまずは「利尿剤」を使用することになります。「尿」にして、浮腫としてたまっている水分を体外に排出させようという方法です。
とはいえ、先ほどの「血栓」と「リンパ浮腫」、「甲状腺機能低下症」の場合には「利尿剤」はあまり有効ではなく
「血栓」が原因であれば、その「血栓」を何とかしようとした方がよいですし
「甲状腺機能低下」であれば、甲状腺ホルモンを補ったり、場合によっては原因となっている分子標的治療薬を変更したりを検討します。
「リンパ浮腫」に対しては、利尿剤は有効ではないし、体内の水分が過剰になっているわけではないので利尿剤で強制的に水分を出してしまうと体内のバランスが崩れてしまう場合もあります。
クスリ以外の対処方法としては
 浮腫(むくみ)部位を高くする
 マッサージ(血栓の場合にはお勧めできませんが)
 弾性ストッキングなどで圧迫する
 運動
などが有効とされています。
クスリを検討する前に、まずはこれらのことを試してみてもいいかと思いますし
クスリを飲みながらこれらを一緒にやれば、より効果的です。

浮腫(むくみ)は、状態(原因)にもよりますが、完全になくなるのが難しい場合も多いのですが
普段の生活に支障がないくらいにおさまるように対処していけるといいですよね。

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