マスク着用によってマスク内の二酸化炭素濃度が上昇するということについては、以前の記事でお伝えしました。
そうは言っても、マスクを着け続けても不快感を感じない人が多いためか、マスクによる悪影響という論点は持ち上がらないことがほとんどです。
ですが、マスクを着用し続けることは身体にとって負担であり、特に呼吸器が未発達の子どもに関してはさらに負担がかかると思われます。
そこで今回の記事では、マスク内の二酸化炭素濃度の上昇が身体にダメージを与える可能性が高いということを、なるべく信頼性の高い資料によって裏付けることを目的とします。
マスク着用によるデメリットはないと考えておられる方に、読んでいただきたいと思います。
子どもにとっての二酸化炭素濃度の許容範囲とは? 文部科学省による基準 子どもにとって望ましい二酸化炭素濃度とは、どの程度なのでしょうか。
まず、二酸化炭素濃度というのはppm(parts par million)で表されることが多いのですが、これは100万分のいくらかという割合を示す単位です。
つまり、1ppm=0.0001%です。
例えば、10000ppmは1%ですので、二酸化炭素濃度が10000ppmというと、空気中に二酸化炭素が1%含まれているということを意味します。
そして、文部科学省が発表している「学校環境衛生管理マニュアル 」では、以下のように述べられています。
換気の基準は、二酸化炭素の人体に対する直接的な健康影響から定めたものではない。教室内の空気は、外気との入れ換えがなければ、在室する児童生徒等の呼吸等によって、教室の二酸化炭素の量が増加するとともに、同時に他の汚染物質も増加することが考えられる。このため、教室等における換気の基準として、二酸化炭素濃度は 1,500 ppm 以下であることが望ましいとしている。
文部科学省「学校環境衛生管理マニュアル」、26頁 このように、文部科学省は、教室内の二酸化炭素濃度を1500ppm以下に保つべきであると定めています。
ただし、これは直接的な健康影響から定めたものではないらしいので、直接的な健康への被害という観点からも考える必要があります。
Nature関連誌の論文による見解 次に、nature sustainabilityに掲載されているレビュー論文「Direct human health risks of increased atmospheric carbon dioxide(空気中の二酸化炭素の増加による直接的な健康上のリスク)」から、望ましい二酸化炭素濃度の値を検証したいと思います。
簡単に結論部分を示しておきます。
現在集まりつつあるエビデンスは、5000ppm以下のCO2が人間の健康に直接的なリスクを引き起こす可能性を支持している。これらのリスクには、炎症、高いレベルの認知能力の低下、骨の脱ミネラル化、腎臓石灰化、酸化ストレス、内皮機能不全が含まれる。 Emerging evidence supports the possibility that CO2 (at concentrations <5,000 ppm) poses direct risks to human health. These risks include inflammation, reduced higher-level cognitive abilities, bone demineralization, kidney calcification, oxidative stress and endothelial dysfunction.
nature sustainability "Direct human health risks of increased atmospheric carbon dioxide" p.698 (訳:筆者) ※注 医療用語に関しては訳が適切でない場合があります。 ここで5000ppm以下と表記されていますが、論文内で懸念の可能性がある暴露のレベルは1000ppm以上の二酸化炭素濃度に2,5時間以上という定義が示されているため、1000ppmから5000ppmの範囲を指していると思われます。
この論文では、二酸化炭素濃度が1000ppm以上で認知能力に影響がある可能性と、3000ppm以上で鼻腔に軽い炎症が起きる可能性が示唆されています。
ただし、骨の脱ミネラル化、腎臓石灰化、酸化ストレス、内皮機能不全などは動物実験による結果をもとに推測されているため、さらなる研究が必要になってくるだろうと思います。
他にも、幼児や子どもへの影響にも言及されています。
環境的なCO2の増加による直接的な健康上の影響は、特に幼児と子どもに対して問題があるだろう。彼らは、体重の割に多くの空気を吸い込み、高い二酸化炭素濃度にさらされるのは成長と発達の重要な時期だ。 The direct health effects of environmental CO2 increases may be particularly problematic for infants and children, who breathe more air relative to their body weights and are exposed during a critical period of growth and development.
同上(訳:筆者) 以上のように、このレビュー論文からは、1000ppmから5000ppmの二酸化炭素濃度がリスクを引き起こす可能性と、特に幼児や子どもが悪影響を受けやすいことがわかると思います。
マスク内の二酸化炭素濃度 マスク内の二酸化炭素濃度については以前の記事でもお伝えしたのですが、ここでは同じ研究をさらに詳しく紹介したいと思います。
取り扱う研究は、「Effect of Wearing Face Masks on the Carbon Dioxide Concentration in the Breathing Zone (マスク着用がマスク内の二酸化炭素濃度に及ぼす影響)」というものです。
研究の方法は次のようになっています。
二酸化炭素濃度は2つの活動パターンにおいて計測された。最初の状況では、50歳男性のボランティアがコンピューターで作業をしつつ鼻呼吸を行い、計測時間の間は座ったままであった。この状況下で、3つの種類のマスクの全て(サージカルマスク、KN95マスク、布マスク)がテストされた。二つ目の状況では、(サージカルマスクを着用しながら)同一のボランティアがランニングマシンで時速0キロ、3キロ、5キロ以下で歩いた。時速0キロと3キロ以下のときは、男性は鼻呼吸を行っていたが、時速5キロ以下のときは口呼吸を行った。〔…〕活動パターンのサンプルの計測時間はそれぞれ5分であった。 The concentration of carbon dioxide was measured for two activity patterns: in the first scenario the male, 50 year old volunteer was working on a computer, breathing through the nose and remaining seated for the duration of the measurements. Under these conditions, all three types of face masks were tested. In the second scenario, the volunteer was walking on a treadmill at 0, 3 and 5 km h–1 . While at 0 and 3 km h–1 , the volunteer was breathing through his nose, at 5 km h–1 he was breathing through his mouth. 〔…〕The sampling duration for each activity pattern was 5 minutes.
Aerosol and Air Quality Research "Effect of Wearing Face Masks on the Carbon Dioxide Concentration in the Breathing Zone" p.4 (訳:筆者) 簡単に言うと、50歳のおじさんがマスクを着けながら座ったり歩いたり走ったりしてマスク内の二酸化炭素濃度を測った実験です。
そして、結果は次のようになっています。
二酸化炭素濃度はそれぞれ、サージカルマスクで2107 ± 168 ppm、KN95マスクで2293 ± 169 ppm、布マスクで2051 ± 238 ppmであった。〔…〕したがって、フェイスマスク着用時のマスク内の二酸化炭素濃度は、平均で1650ppm上昇したことになる。 The concentrations were 2107 ± 168 ppm, 2293 ± 169 ppm and 2051 ± 238 ppm for the surgical, the KN95 and the cloth mask, respectively.〔…〕 The concentration of carbon dioxide in the breathing zone while wearing the face mask did therefore increase in average by approximately 1650 ppm.
同上(訳:筆者) 立っているだけの状態(時速0キロ)では、二酸化炭素濃度の平均は2226 ± 165 ppmであった。これは予想通り、オフィスワークのときと同じ範囲である。時速3キロ以下で歩いたときは、二酸化炭素濃度に小さな増加(2536 ± 245 ppm)がみられた。〔…〕時速5キロ以下で歩いたときは、二酸化炭素濃度のさらなる増加(2875 ± 323 ppm)がみられた。 The average concentration of 2226 ± 165 ppm while standing still was, as expected, in the same range as the concentrations measured while doing office work. A small increase in concentration (2536 ± 245 ppm) could be observed while walking at a speed of 3 km h–1 .〔…〕A further increase in the detected carbon dioxide concentration was observed while walking at 5 km h–1 (2875 ± 323 ppm),〔…〕
同上、 p.5(訳:筆者) したがって、二酸化炭素濃度の数値をまとめると以下のようになります。
オフィスワーク(サージカルマスク) →2107 ± 168 ppm オフィスワーク(KN95マスク) →2293 ± 169 ppm オフィスワーク(布マスク) →2051 ± 238 ppm 時速0キロ(サージカルマスク) →2226 ± 165 ppm 時速3キロ以下のウォーキング(サージカルマスク) →2536 ± 245 ppm 時速5キロ以下のウォーキング(サージカルマスク) →2875 ± 323 ppm
Aerosol and Air Quality Research "Effect of Wearing Face Masks on the Carbon Dioxide Concentration in the Breathing Zone"をもとに筆者が作成 ここで補足しておきたいのが、マスク着用しながらの時速3キロ以下でのウォーキングでは二酸化炭素濃度が一時的に3000ppm(鼻腔に軽い炎症が起こる数値)を越え、時速5キロ以下では3500ppmを越えるということです。
平均的な数値を見ても、認知能力が低下する可能性のある1000ppmを越えていますし、文部科学省が提示した1500ppmも越えています。
さらに、この実験の対象が成人男性であるという点も留意するべきでしょう。
また、二酸化炭素濃度上昇による弊害に関しては、この論文内においても触れられており、以下のようなことが言われています。
二酸化炭素に関する健康上の症状は二酸化炭素濃度1000ppm以上で確認されており、眠気や注意力の低下を含む。 Carbon dioxide-related health-symptoms have been observed at concentrations above 1000 ppm and include drowsiness and loss of attention (Guais et al., 2011).
Aerosol and Air Quality Research "Effect of Wearing Face Masks on the Carbon Dioxide Concentration in the Breathing Zone" pp.5-6 (訳:筆者) Limたちは2006年に、頭痛の発生に関連するリスク要因を特定するために、医療関係者に対して実験を行った。約40%の回答者はフェイスマスクが頭痛に関係していると報告した。 Lim et al. (2006) administered a survey to healthcare workers to determine risk factors associated with the development of headaches. Approximately 40% of the respondents reported wearing face masks was associated with headaches.
同上、p.6(訳:筆者) Satishたちは2012年に、彼らの実験が僅かに増加した二酸化炭素濃度(約2500ppm)が、意思決定に影響を与えることを示した。 Satish et al. (2012) suggested in their study that even moderately elevated CO2 concentrations (approximately 2500 ppm) have the potential to affect decision-making.
同上(訳:筆者) したがって、この論文内においては、マスク着用による二酸化炭素濃度の増加は人体に有害であるとは言えないものの、疲労、頭痛、集中力の低下などの望ましくない症状を引き起こす可能性があると結論付けられています。
子どもたちはマスクを外せない 最後に、学校で子どもたちがどのようにマスクを着用させられているか、その一例を紹介したいと思います。
先日拝見した「マスクを外せない子ども達の現状」という記事が衝撃的だったので、ここで引用させていただきます。
運動会の100m走はほとんどの子がマスク。 合唱の発表もマスクのまま歌う。 宿泊体験も、入浴と食事以外はマスク。 就寝時ももちろんマスク! もちろん、普段の給食は未だに黙食。 黙って前を向いて食べる。 黙って聴いている授業中、発言時以外もずっとマスク。
りえすく様「マスクを外せない子ども達の現状 」 この文章を読んでみると、運動を含む学校の全ての場面において子どものマスク着用が実質強制させられているということがわかると思います。
子どもが喋っているとき以外にもマスクを着用させるというのは、教員が何も考えていないということの証左であり、手段が目的化してしまっているということを示しています。
感染症を防ぐためのマスクだったはずが、その観点が抜け落ちて、マスクを着けさせるということにしか目が向けられていません。
そのため、マスクの感染対策に対する有効性、あるいは、マスクを長時間着け続けることの副作用については全く議論されないのだと考えられます。
もちろん、このような学校が全てだとは断言できませんが、多くの学校では同じようなことが起こっているのだと思います。
さらに衝撃的なのは、以下の記述です。
11月に持久走大会があった。 「走る時はマスクを外すよう指導しますが各家庭の判断に任せます。」と学校のお便り。 当日の様子を見ると、約半分がマスクの印象。 何より衝撃だったのは、周りに誰もいない状況で息を荒げて苦しそうに走っている子がマスクを少しだけ浮かせて空気を吸っていた姿。。。 苦しいなら外せばいいのに。 そんなに苦しそうなのに、外さないのだ。 いや、外せなくなっている。
りえすく様「マスクを外せない子ども達の現状 」 持久走においても子どもはマスクを着用し、それを外せなくなっているということです。
先述した研究においては、時速5キロ以下で歩いた場合のマスク内の二酸化炭素濃度は一時的に3500ppmを越えるということが示されていました。 ですので、持久走中にマスクを着けるという行為は科学的に考えてもかなり危険です。
他にも、マスクを着用して持久走を走った小学生が死亡したという事件が以前にあったのだから、教員あるいは保護者が「持久走中はマスクを外しなさい」と子供に指示するべきです。
ですが、凡庸な悪と化した大人は「マスク着用はどちらでもよい」と思考停止し続けるのでしょう。
大人がマスクを外さなければ、子どもはマスクを外せません。
そして、大人以上に、子どもたちは「感染症対策」による被害を受けています。
子どもがマスクを外せるように、まずは大人がマスクを外してみませんか?
また、マスクの有効性に関しては以前の記事で論じていますので、そちらを参照してくださると幸いです。
追記 記事を拡散してくださった方々に感謝申し上げます。 ありがとうございます。 また、この記事の転載や利用についてはご自由にお使いください。