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シアトルでの年末「第九」 アメリカ・オーケストラ漫遊(16) Seattle, WA

 クリスマス休暇を使って演奏会三昧の旅行を、と思ったものの、年末は多くの楽団も休みがちということで、この旅行中に入れられたコンサートは2つのみ。
 オレゴン州ポートランド、カナダ バンクーバーを旅してワシントン州シアトルに到着した。地図を見るだけではわからないがシアトルは海岸は近いが坂も多い。

坂具合を伝えるのは難しい

 そして、Seattle Symphonyの本拠地であるベナロヤホールのすぐ隣には、シアトル美術館がある。ちょうどこのタイミングで、”HOKUSAI”展をやっていた。これはThanksgivingの休みに行ったボストン美術館で改装中のため見られなかった作品が巡回しているものらしく、偶然の巡り合わせに驚いた。なかなか日本でもここまでまとまった北斎の展覧会は珍しいのではないか。江戸時代の興味深い絵画を多く見られてとても興味深いとともに、どうやってこれらの絵画がアメリカにたどり着いたのか不思議に感じた。

 他にもシアトルはボーイング社のお膝元ということで、工場の一部に大きな航空博物館がある。歴史的な航空機の展示が数多く、行ってみる価値のある場所だ。

過去のAir Force Oneは中に入って見学できた

 有名な市場であるPike Place Marketを見て周り、近くのBrewryで食事をしてコンサートに備えた。

会場のベナロヤホール

2023年12月30日 シアトル交響楽団

12/30/2023, Sat, 8:00 pm, @ Benaroya Hall, Seattle, WA
Seattle Symphony
Seattle Symphony Chorale
Kahchun Wong, conductor
Katie Van Kooten, soprano


  • Symphony No. 9 in D minor, Op 125 "Choral" / Ludwig van Beethoven

 会場のベナロヤホールは、私の好きな直方体型だが、舞台は浅く間口が広いと感じた。内装はとてもきれいで、客席は一階が傾斜しており、中央より後方の席からは舞台上もある程度見えるようになっていた。
 舞台上は後方に合唱のひな壇がある分だけオーケストラが窮屈そうに感じられた。トランペットが下手の後方、ホルンとトロンボーンが上手の後方と分かれて配置されていた上、トランペット、トロンボーンが客席方向ではなく斜めを向いていたのが気になった。
 プログラムを見て少し不思議に感じたのが、歌のソリストがSopranoしか書かれていなかったことだ。実際には4人のソリストがいたので他の3人は何者なのだ、となってしまった。
 オーケストラを聴く第1から第3楽章、合唱も含めてクライマックスに至る第4楽章というイメージで楽しみにしていた。第1楽章の初めからのサウンドが今ひとつ。後ろにコーラスがいることもあり管楽器が台に乗っておらず、木管楽器、ホルンがあまり抜けて来ない印象だった。このような配置、環境ではロータリートランペットよりもピストン式の方が抜けて聞こえたりはしないのだろうか。そもそも、第3楽章まで通してテンポ設定がゆっくりめなので流れていかないし、全体のユニゾンも探りながらだと感じ、このまま第4楽章にいってしまったらどうなるのかと心配だった。
 しかし、第4楽章が始まると演奏のまとまりがよくなったように感じ、バリトンの独唱が始まるとその声量にひどく驚いた。それはとても大きく聞こえて、マイクを通しているのではないかと思ったくらいだ。その後に続くコーラスの声量もとても大きく、曲が続いていくにつれてどうやらマイクではないらしいと納得した。そうすると、それまでのオーケストラは何だったのかと思ったが、結果的に歌とコーラスでしっかりと盛り上がりを作ってフィナーレを迎える形になった。
 コーラスと4人のソリストは見事だったが、オーケストラはどうだったのか。第4楽章は良かったので、そこはちゃんとリハーサルしたのだと思うが、第1から第3楽章は(コーラス、歌手の声量からして)量、質とも明らかに物足りない演奏だった。もちろん第4楽章を仕上げてしまえばお客さんは満足するのかもしれないが、第1から第3楽章を聴かせないとオーケストラとしての意地、矜持を保てないのではないだろうか。聴衆は大喝采だったが、それだけでは私としてはやはり物足りない。

 そうは言っても、アメリカで第九の演奏会は多くないし、それを聴くことができたのはとてもいい経験だった。またどこかの機会にききにいきたい。

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