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ヴァイオリンコンチェルト聴き比べ アメリカ・オーケストラ漫遊(8) Toledo, Ohio

 前回トレド美術館に併設されたホールで聴いたToledo Symphonyだが、2回目の今回はToledo downtownの”theatre”が会場だった。前の週のAnn Arbor Symphonyと同じような各地にあるタイプの施設だ。ただし、コンサートホールとしてはこちらの方が高さが取れている分だけ音響の点ではいいホールという印象だ。
 今回の見所は、3週間前のDSO(デトロイト交響楽団)とのViolin Concertoの聴き比べだ。

2023年10月21日 トリード交響楽団

10/21/2023, Sat, 8:00 pm, @ The Valentine Theatre, Toledo
Toledo Symphony
Vinay Parameswaran, conductor / Rachel Barton Pine, Violin


  • Brandenburg Concerto No. 3 / Johann Sebastian Bach

  • Symphony No. 8 / Ludwig van Beethoven

  • Violin Concerto / Pyotr Ilyich Tchaikovsky

 会場はアメリカの古い劇場のようでいて内部は高さもある綺麗なコンサートホールだった。席は2階バルコニーの前方を確保。舞台を見下ろすことができ、見ていて面白い席だ。
 指揮者のVinay Parameswaran氏はインド系のルーツを持つ方で、アメリカ国内を中心にクリーブランド管弦楽団やデトロイト交響楽団を含む各地のオーケストラを指揮した経験のある若手だ。
 バッハはチェンバロを中心に配置した室内楽編成。この大きなホールでも十分に響いて、バッハの和声の響きを感じることができた。
 ベートーヴェンの交響曲第8番は、第7番と同時期に作られた曲で、初演も同じコンサートだったようだ。当時から有名な第7番の引き立て役のような位置付けで、少し短めの交響曲だ。前回Toledo symphonyを聴いたときはThe Peristyleというトレド美術館の講堂のような極端に天井の低いホールだったこともあり、合奏を練習室で聞いているみたいで、サウンドがうまくまとまって聞こえてこなかった印象だったが、ここではそのような違和感はなく、楽団のサウンドとしてバランスの良い演奏だったと感じた。
 演奏会の後半は、今日のメインのチャイコフスキーのコンチェルトだ。ソリストのRachel Barton Pine氏は昨年にはシカゴ交響楽団でソリストを務めるなど有名なアメリカ人ヴァイオリニスト。足が不自由なのか専用のカートで舞台上に現れ、座っての演奏だった。演奏の際にはハンドル部分が地面に倒れて身体の動きを邪魔しないようになっていた。
 ヴァイオリンの音が際立っているのはもちろんだが、旋律の歌い上げ方が特徴的で、時間の使い方だけではなく、一つの音のはずなのにわずかな音程の変化をつけていた。平均律のピアノの世界ではあり得ないことなのだが、音程の部分にも自由度があるというのが弦楽器の特徴なのだと改めて感じた。少し低い/高いところから弾き始めてメインの音に繋げるというテクニックがあるだけで、聴く側からすると印象付けられて感覚を刺激される。音質もとても暖かく、Soloのカデンツァなどもとても立体的に感じられた。この奥行きのある感じというのも不思議なものだと思った。
 聴き比べという点で言えば、個人的には今回のToledo Symphony x Barton Pineの演奏の方がSoloの味付けのユニークさが際立っていた点で印象に残っている。やはりSoloistによって曲の演奏の仕方が全く違うというのを改めて感じることができた。

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