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ミネソタ管弦楽団が好きすぎる件ーアメリカ・オーケストラ漫遊(2) Mineapolis, Minnesota

 各オーケストラの2023/2024シーズン開幕を追う2回目はミネソタ管弦楽団。本拠地ミネソタ州ミネアポリスはデトロイトから飛行機で2時間、一泊二日の旅程で出掛けてきた。

ミネソタ管弦楽団との出会い

 遡ること5か月前、今年の4月末から5月初めにかけて、ミネソタ州を旅行した。せっかく行くのだから、その地域のオーケストラを聴いてみよう、「ミネソタ管弦楽団」って名前聞いたことあるし、という程度の軽い気持ちでコンサートのチケットを手配した。

2023年4月29日 ミネソタ管弦楽団

4/29/2023, Sat, 8:00 pm, @ Orchestra hall, Minneapolis
Minnesota Orchestra
Juanjo Mena, conductor / Garrick Ohlsson, Piano


  • Elegy: In Memoriam-Stephen Lawrence / P. Herbert

  • Concerto No.1 in C major for Piano and Orchestra, Op.15 / L. Beethoven

  • Symphony No.6 in A major / A. Bruckner

 この演奏会で聴いた演奏が本当に素晴らしく、本当に1曲目のサウンドからこれまで聴いてきたオーケストラ(デトロイト響、シカゴ響)とは全然違う特徴が感じられて圧倒された。アンサンブルがとても上手く、弦楽器と管楽器のバランスが絶妙だった。
 特に、プログラム後半のブルックナーの交響曲第6番が本当に美しく、それまでは私自身が少し聴きにくい印象を持っていたブルックナーを全く飽きることなく聴かせてくれ、その演奏に本当に感銘を受けた。

 この演奏会をきっかけに、ミネソタ管弦楽団に一目置くようになり、新シーズンの開幕でR.Strauss「アルプス交響曲」をやるというのだから、見逃すわけにはいかないということで、一泊二日で行ってみることにした。

ミネソタ州とはどんなところ?

 ミネソタ州は北はカナダと国境を接する、アメリカ中北部に位置する州で、冬の寒さは厳しく、夏はとても過ごしやすい地域だ。私が住むミシガン州南部と比べても春は1週間遅れ、秋は1週間早めな印象で夏が短いように感じる。

ミシシッピ川の源流 アイタスカ湖

 アメリカを南北に貫くミシシッピ川の源流があるのがこのミネソタ州で5月には源流のあるアイタスカ湖(Lake Itasca)まで足を運び、アメリカを代表する大河に想いを馳せた。
 そこからミネアポリスまで下るともう既に大河の風格がある。ミネアポリスの街は広大な畑から取れる小麦と、ミシシッピ川の水流を利用した製粉業が代表的な産業だった都市だったようだ。今でもかつての製粉工場の遺構が観光地として見学ができ、当時の繁栄を思わせる。

昔の鉄道橋が今は観光用に開放されている

 現在は主に商業が盛んで、アメリカ小売大手の"Target"が本社を構えていたり、化学メーカーの開発拠点が多いようだ。街はアメリカの大都市にしては治安は良く安心して街を歩くことができる。(とは言ってもメトロで少し郊外に行くと不穏な感じはするので夜は要注意。)
 ミネアポリスと並んでミネソタ州の中心をなす街がセントポールだ。ミネアポリスが商業の中心地なら、そこからメトロで30分の距離にあるセントポールは行政の中心ということで、両方を合わせてTwin Cityと呼ばれている。MLBのチームはMinnesota Twinsだ。
 日本との繋がりに関して言えば、ミネアポリス-セントポール国際空港(MSP)へは羽田空港からデルタ航空が直行便を飛ばしている。有名企業の拠点がそれほど多いとは思えず不思議ではある。

ミネアポリス美術館

 ミネアポリス美術館では全米有数の東アジアに関するコレクションを見ることができる。縄文土器から埴輪、如来像、茶室の再現したもの、紀州徳川家伝来の鎧など、日本にいてもなかなか見ることのできないコレクションの数々に、何か嬉しい気分になった。もちろん西洋絵画のコレクションも素晴らしく黄金時代のオランダ絵画が充実していたように思う。また、ジョルジュ・スーラの「ポール アン ベッサンの港と岸壁 The harbour and  the Quays at Port-en-Bessin, 1888」がとてもユニークなのではないか。

2023年9月23日 ミネソタ管弦楽団

9/23/2023, Sat, 7:00 pm, @ Orchestra hall, Minneapolis
Minnesota Orchestra
Thomas Søndergård, conductor / Nathan Hughes, oboe


  • The Star-Spangled Banner

  • Don Juan / R. STRAUSS

  • Oboe Concerto / MOZART

  • An Alpine Symphony / R. STRAUSS

雨のオーケストラホール

 さて、土曜日の朝のフライトでミネアポリス入りして、空港の制限エリア内、Mall of AmericaのCalibou Coffeeでゆっくり時間を潰して、ミネアポリス美術館を見学、ブリュワリーで一杯、アイリッシュパブで夕食をとってコンサートに備えた。
 ミネアポリス管弦楽団は今シーズンから新しく音楽監督としてThomas Søndergård(トマス・セナゴー)氏を迎え、この日が初めてのコンサートだった。ミネソタ管弦楽団を初めて指揮したのが2021年12月ということなので、そこからすぐに音楽監督に決まったということなのだろう。よほど奏者、聴衆からの評判が良かったに違いない。
 そして、結論から先に言えば、本当に素晴らしい演奏会だった。R.STRAUSSの作品に求められる重厚感のあるサウンドは迫力十分だったし、Thomas Søndergård氏の棒さばきが本当に美しく、楽団との相性の良さを感じられた。長めの指揮棒を駆使して、棒の先が意志を持ってしなやかに宙を舞っている、そして全身で音楽を表現している、指揮者の動きを美しいと感じたのはこれが初めてだ。

The Star-Spangled Banner

 新任音楽監督のインタビューに続き、奏者が入場し、シーズン初めのお約束、アメリカ国歌の演奏を立ち上がって聴く。国歌の演奏からして上手すぎる。

Don Juan / R. STRAUSS

 華やかな演奏会のオープニングに本当にふさわしい、全ての楽器の隅々まで鳴らすような表情の豊かな演奏だった。このサウンドだよね、っていうのを5か月ぶりに思い出した。金管楽器は決して破壊的ではないが存在感は十分、木管楽器のソロ、特にオーボエは本当に聴かせる演奏だった。

Oboe Concerto / MOZART

 オーボエのソリストNathan Hughes氏は、Minnesota Orchestraの首席オーボエ奏者。地元セントポール出身で2022年に加わった若い奏者だ。オーケストラの編成も非常に小さくなって弦楽器も半分以下、管楽器はホルンとオーボエだけだった。
 編成が小さくなっても音量的には十分で、オーボエを引き立てるにはちょうどいい編成だった。よく通るオーボエソロを聴いていて、この特徴のあるダブルリードのよく抜けてくる音はオーボエ独特のもので唯一無二なのだと改めて思った。美しい音で技術的にも表現としても大変良い演奏だった。
 R.Straussの2曲に挟まれて、フッと一息リラックスするのにもちょうどいい曲だったと感じた。ちなみに、今日はオーボエの首席奏者がConcertoのSoloistのため他の曲では演奏していなかった。それでもオーボエが活躍する場面はとても多かったし、本当に素晴らしい演奏だった。この層の厚さも感じさせられた。

前回同様、下手前方2F席を確保

An Alpine Symphony / R. STRAUSS

 「アルプス交響曲」は吹奏楽コンクールでもよく演奏される曲だし、これと良く似たチェザリーニの「アルプスの詩」が私の世代ではよく聴かれた。私自身も大学時代に「アルプスの詩」を演奏したことがあり、とても思い出深い曲だ。
 「アルプス交響曲」はこれまで生演奏で聴いたことはなかったが、現地で聞くと色々とある仕掛けがどのように立体的に聞こえるのかがとても楽しみだった。
 アルプスの夜を表現した静かな曲の冒頭に続き、太陽の出現を示すテーマが華やかに鳴り響く。その全ての楽器が過不足なく鳴っているサウンドを聴けただけでもうこの演奏が素晴らしいことを確信し、あとは音楽に身を委ねてその後の40分を過ごすだけだった。途中舞台袖からの強力なホルン、2F席最前方に設置され間近で聞こえたカウベル、ウインドマシーン、サンダーマシーンという珍しい打楽器などの仕掛けを楽しむことができた。山の草原を表現したような木管楽器の軽いさえずり、遠くで鳴るようなホルン、ホルン8人中4人がワグナーチューバに持ち替えての分厚い響きが印象的だった。金管群も必要なところでは十分に存在感を出していたし、管楽器がここまで映えるのは弦楽器を含めた全体のアンサンブルが素晴らしいためだと思う。
 楽団、奏者が素晴らしいのはもちろんだが、やはり指揮者のSøndergård氏と楽団の相性がとてもいいのだろう。Søndergård氏の棒さばきは一つ一つの楽器にまで行き届いており、それに楽団が呼応した名演だったと思う。

まとめ

 そもそも今回のプログラムがカロリー高め、感動しやすい曲であることは差し引いたとしても、4月に聞いたときの素晴らしさを更新する演奏を聴くことができて大変思い出深いコンサートになった。
 このシーズンの終わり、来年6月にもデトロイト交響楽団で「アルプス交響曲」を聞く予定にしている。ミネソタとの違いが如何ほどなのか大変楽しみだ。

 こんな演奏をする楽団があるというだけで、アメリカに移住するなら(または次の駐在は)ミネアポリスにしたいとさえ思ってしまう。そんな幸せな一泊二日の週末だった。

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