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SynthesizerV表現調整テクニック講座 手動ピッチ調整編 #05 自動ピッチ調整を再現する

こんにちは。SynthV音屋の十竜です。
この講座はなんぞや、という方はまずは導入編を読むことをおすすめします。
SynthesizerV表現調整テクニック講座 導入編
※本記事は日本語を使用しています。英語・中国語でも応用可能ですが、解釈が大き変わる場合もあるのでご注意ください

手動ピッチ調整編 #05 自動ピッチ調整の再現

ここまで手動でピッチを調整する方法を解説してきましたが、これらは何かしらの歌唱技術をベースに調整するといったものでした。しかし、細かな部分では歌い方の癖であったり、歌い方の個性のであったりというものがでてきます。歌唱データベースを元にピッチを生成しているSynthVであればそれらはより顕著に表れます。

そういった個性に忠実に合わせて手を加えるとなれば、自動ピッチ調整の結果から手動での方針を整える必要があります。
今回はそういったケース、また単に自動ピッチ調整で表れる技法を学びたいときに、自動ピッチ調整の結果を手動でどう再現していけばいいかを解説していきます。

自動ピッチ調整の傾向

前述のような目的で自動ピッチ調整を研究する際にですが、まずは再現できるか、再現する必要があるものかを切り分ける必要があります。当然ながら手動で自動の完全再現は不可能であり、それを目標にしてしまい不毛な状況に陥ることを避けるためにも、ある程度の切り分けはしておきましょう。

自動ピッチ調整の細かいピッチ移動

まずはどの音源にも当てはまる要素として、自動ピッチ調整を入れると必ず画像のような、しゃくりやフォールとも言えず、ビブラートでもないような細かなピッチが生成されます。先に結論からいくと、このピッチ変化を手動で再現するのはどれだけ時間があっても不可能だといえます。

弱いビブラート(?)に加えて細かいピッチ変化がみられる

なぜそうなるのかですが、これは人が歌った際の微弱な声の震えといったものにあたります。手動でやるなら大量の自動ピッチ調整のデータから傾向を見出してノート一つ一つにピッチカーブを書いて……という流れが想定されますが、これができたらおよそ人間業ではないでしょう。そもそもやっていることはSynthV音源のデータベース構築時にやっていることと同じなので、なかなか高度な二度手間とも言えるでしょう。

自動ピッチ調整の再現

さて、自動ピッチ調整の傾向について話したところで本題に入りましょう。今回の目的は冒頭でも触れた通り、自動ピッチ調整こピッチ変化を手動で再現することです。必要なのはノートとピッチラインの差を見ること、そしてピッチに関するパラメータの機能を知ることです。

今回のサンプルは私が後悔している曲「知識触媒」のフレーズから抜粋します。BPMは190、ボーカルは花隈千冬です。

https://www.nicovideo.jp/watch/sm42445708

自動ピッチ調整を入れる

自動ピッチ調整の再現を始める前に、再現元のピッチを生成しましょう。
今回は「自動ピッチ調整」を次のような設定で実行しました。

自動ピッチ調整の設定
自動ピッチ調整の結果

生成されたピッチには様々な変化が見て取れます。
では、これらをどう再現するのかを考えていきましょう。

今回の方針として、ノートプロパティのピッチ関連のパラメータとビブラートエンベロープのみを用いて調整します。細かい手動調整は行いませんのでご注意ください。

①ノート開始時のピッチ上昇

一番最初の「こ」のノートでは、発音開始時には本来のピッチよりも低いところから始まっています。これはしゃくりといわれる技法などで発生するピッチ変化です。
他にも中盤の「つ」「あ」でも同様のピッチ変化が見られます。

このピッチ変化を再現するには「長さ - 左」「深さ - 左」を活用します。

かなり深めにピッチ変化が入っているので、「深さ - 左」の値は大きくします。フレーズ開始、また子音のピッチも影響して自動ピッチ調整では極端なピッチ変化となっていますが、そこは一旦甘めに見て大体の値に抑えています。
そしてノートの中央あたりでピッチの頂点にきているので、「長さ - 左」でそうなうように調整します。今回は 0.240 sec あたりで設定しました。

②ビブラート1

「こまかに」の「に」ではノート全体にビブラートがかかっています。

ノート開始時からビブラートを始めて、かつ深めにというイメージで調整します。それぞれビブラートの「開始タイミング」「深さ」を設定します。そしてビブラートの周期を合わせるために「周波数」も設定します。

ノート開始時からビブラートが始まっているため、「開始タイミング」は 0.000sec にしておきます。これに合わせて「左」「右」の時間も調整しておくとなおよいです。
「深さ」はノートの高さから±1の高さにはみ出るかくらいなので 1.00 smt 前後で設定します。
最後に周期を見て、「周波数」を設定します。

③ビブラート2

最後の「が」の長いノートには。まず細かなゆらぎによるピッチ変化の後、末尾に少しだけビブラートが入っています。遅れてビブラートが入るためビブラートの「左」の時間で調整して……といきたいですがビブラートになるまでの時間が長くプロパティで調整可能な範囲に収まりません。

ではどう再現するかですが、ここでは「ビブラートエンベロープ」を活用します。

まずは②ビブラート1でやったような調整をしておきます。ノート全体にビブラートがかかりますが、自動ピッチ調整でビブラートがある部分を基準に設定します。
そして、自動ピッチ調整ではノートの頭から7拍目あたりからビブラートがはっきりしているので、ノートの頭から7拍目まで0xにしておきます。
そこから強くなっているので中央あたり(1x)に持ってきます。

④子音のピッチ

まだ解説していない部分ですが、子音にもピッチがあり、自動ピッチ調整ではしっかり反映されます。そしてノートの高さからは大きくはずれていることも多いです。
この際なのでこれもピッチのプロパティで再現していきましょう。

ここでは他の影響が少ない、最後の方の「ろが」で再現してみます。

「が」の子音「g」で大きくピッチが下がってもとに戻るような変化をしています。このピッチ変化をピッチ推移のパラメータで再現していきたいですが、対象のノートは「が」ではなく「ろ」の方になります。

高さとしては「が」の2つ下あたりになるので「ろ」の「深さ - 右」の値を大きくしピッチがそのあたりになるように調整します。
そして「長さ - 右」でピッチが変化する時間を「g」の範囲に狭めます。
すると自動ピッチ調整にちかいピッチが出来上がります。

完成形

今回はだいたいの調整を施して次のような結果になりました。

ピッチラインはかなり近くはなっているものの、仕様上再現ができなかったり、細かい変化には対応できなかったりとするので、プロパティだけでは妥協している部分も多くなっています。しかし、それだけでもここまで近づけることができる、ということはご理解いただけたかと思います。

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