SynthesizerV表現調整テクニック講座 音素編 #02 発音方法

こんにちは。SynthV音屋の十竜です。
この講座はなんぞや、という方はまずは導入編を読むことをおすすめします。
SynthesizerV表現調整テクニック講座 導入編
※音素編は基本的に日本語特化です。


音素編 #02 発音方法

音素調整は調整における下書きである、と音素編#01で解説しました。しかし、音素にこだわって調整するにはそれぞれの発音について知らなければなりません。

SynthVの音素のページには母音・子音の他、破裂音・摩擦音などの表記があります。音素ごとの調整を行うためにも、これらの用語が意味する発音方法、また発音位置について簡単に解説してきます。

発音方法

人が発音するには口を様々な形状に変化せます。唇の形、舌の位置、空気の通し方など、口で行える様々な動きで発音は変化します。

まず大きく区別されるのが母音と子音です。母音は「あいうえお」の音で、口と舌の位置で調音されます。子音は「か」「さ」などに現れるような口の中で空気の流れを妨害することで調音されます。

SynthVの音素のカテゴライズに沿ってそれぞれの音がどうやって調音されるのかを簡易的に解説します。

母音、半母音

母音

SynthVで母音は「あいうえお」|| a, i, u, e, o || と「ん」|| N || が定義されています。このうち「ん」は後で解説するとして、「あいうえお」がどうやって調音されるのかを見ていきましょう。

母音は顎の位置(口の開き具合)、舌の位置、唇の形状で区別されます。

顎の位置とは単純にいえば口をどれだけ開くか、というものです。「あ」であれば口を大きく開き、「い」「う」であれば口はあまり開かずに調音されます。

舌の位置とは、舌の口内での前後の位置を表します。「い」であれば比較的前に、「お」であれば後ろに舌を置いて調音されます。

唇の形状とは、唇を丸めるか(円唇)、そうでないか(非円唇)を表します。「お」であれば唇を丸め、「い」であれば丸めません。

顎の位置(口の開き具合)を縦軸、舌の位置を横軸とすると、それぞれの口の状態における発音の表を作ることができます。

母音の表(日本語の音素のみを抜粋)
IPAの一覧表では各箇所に記号が割り当てられている

このうち日本語における一般的な発音は下段左「あ」/a/、上段左の「い」/i/、上段右の非円唇の「う」/ɯ/、中段左の「え」/e/、中段右の円唇の「お」/o/ が該当します。

この表を見ると「あ」と「い」の間に「え」が存在したり、「う」と「お」が隣り合っていたりすることがわかります。それ以外にも2つの母音間でどういう経路を辿るか、日本語には無い母音は口をどういう形状にして発音するかなど、様々なことが見て取れます。

普通に喋る場合はもちろん、歌う場合も口の形状は変化し続けますので、母音の発音方法、また先程の表を頭の片隅に入れておくことで、細かな口の動きや最適な発音を再現することが可能になります。

半母音

半母音は母音に近い調音ですが、基本的には子音です。日本語においては || w、v、y || の3つがこのカテゴリに割り当てられていますが、挙動としては子音と同様だと思われます。

「わ」「ヴァ」「や」などを入力するとこの音素が割り当てられます。このことから通常は子音として扱われますが、その特性上、母音としても利用することが可能です。

|| w || と|| v ||は、両唇を接近させて調音する持続音から発生する発音です。この持続音は「う」に近い形を取るため、その代用として使うことができます。

|| y ||は口を少し開いて舌を盛り上げて硬口蓋に接近させて発音します。この調音は「い」に近いため、この代用が可能です。

いずれの音素もそもそも子音であるため、後続の音素が母音である場合に「わ、ゔぁ、や」行の音に変化します。

子音

子音は歯や舌、唇などを使って空気の流れを妨害することで調音される音です。通気を完全に塞ぐか、少しだけ通すかなどの調音方法、このときの舌と歯茎、両唇といった調音する部位、そして有声音・無声音(声帯の振動を伴うか)で分類されます。

調音方法による分類

SynthVのカテゴリとしては破裂音、摩擦音、破擦音、鼻音、送気音、液音の6つが定義されています。音声学においては送気音、液音という呼称はなく、それぞれ摩擦音、はじき音と呼ばれています。

破裂音

破裂音は閉鎖を作って通気を塞ぎ、その後に一気に放出することで調音される音素です。
溜めた空気を一気に放出するため、歌唱においては強い音素として現れやすくなります。また通気を塞ぐという性質上、発音の直前に無音や非常に弱い「ん」の区間が存在します。
数は多く、 || t, d, k, g, b, p, ky, py, dy, ty, gy, by || が該当します。

摩擦音

摩擦音は狭い隙間を作って通気させることで調音される音素です。
通気を完全には塞がないので、持続する子音となります。また比較的発音時間が長い音素でもあります。
|| s, sh, f || が該当します。

破擦音

破擦音は破裂音と摩擦音を同時に調音する音素です。そのためこれらの特徴を併せ持ちます。
|| j, z, ts, ch || が該当します。このうち || j, z || はそれぞれ || sh, s || の有声音です。

鼻音

鼻音は、口からの通気を完全に封鎖し、鼻への通気によって調音される音素です。|| n, m, ny, my || 音素が該当します。

送気音

送気音は、声門を狭めることで調音される音素です。|| h, hy|| が該当し、音声学上は声門の摩擦音として定義されています。

液音

液音は、舌先を上歯茎に瞬間的に当てることで調音される音素です。|| r, ry || が該当します。音声学上ははじき音として定義されています。

調音位置による分類

同じ破裂音でも調音位置が異なれば別の子音となります。|| k || であれば口の奥の方で、|| t || であれば口の前で舌先を使って、|| p || であれば唇を使ってというように、子音は口の様々な部位を駆使して調音されます。

両唇音

両唇音は上下の唇を使って調音される音です。
唇を完全に閉じる || p, b, m ||、少し開いたまま調音する || f, w || が該当します。

歯茎音(+そり舌音)

歯茎音は舌先と歯茎を使って調音される音です。
舌先でと歯茎で通気を完全に閉鎖する || t, ty, d, dy, n, ny ||、少し隙間を空ける || s, sh, ts, ch, j, z ||、 はじき音である || r || が該当します。|| r || については日本語の発音では舌先と歯茎の後部や硬口蓋の組み合わせでも調音されます(そり舌音)。

硬口蓋音

硬口蓋音は舌の前面や中面と歯茎の奥にある硬口蓋と呼ばれる部位で調音される音です。|| j, hy || が該当します。

軟口蓋音

軟口蓋音は舌の奥と口の奥の上部にある軟口蓋と呼ばれる部位で調音される音です。 || k, g, ky, gy || が該当します。 

声門音

声門音は声帯を使って調音される音です。|| h || が該当します。

「ん」

日本語において厄介な音素の一つに「ん」があります。「ん」は後に続く発音に応じて顕著に発音方法が変化し、そのパターンも多岐にわたります。しかしSynthVで使用できる音素には限りがあるため、通常「ん」の音として使用するのは || N, n, m || の3つです。

|| N || はノートに「ん」を入力した際にデフォルトで割り当てられる音素です。(おそらく)声門で閉鎖を作ることで発音される「ん」の音です。

|| n || は鼻音である「な行」の子音のみの発音です。舌先と歯茎で閉鎖を作るため、後続の子音が近い形になる || s, t || などの直前に現れます。

|| m || は鼻音である「ま行」の子音のみの発音です。唇を完全に閉じるため、その調音が必要な || m, p, b || の直前に現れます。

三種で分類しましたが実際には前後の音や発音速度によってもっと多くの種類が現れます。しかし、SynthVにそれらを網羅できるほどの音素はありませんので、近い音で代用します。


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