記事一覧
2024 春 静岡 その2
(前回のつづき)
静岡駅の改札で、ぎゃーぎゃー叫んでいる人がいる。駅員に怒っているらしい。悲鳴はおそろしく耳障りなだけで、言葉に聞こえない。
電車の中で友人と落ち合う。ぺたちゃん(仮名)と会うのは半年以上ぶり、去年は僕の家にあそびにきてくれて、タロット占いの練習台になった。
意地が悪く、意固地でケチでワガママで、どうしようもない祖父に愛想をつかして、意地が悪く意固地でケチでワガママでどうしよ
2024 春 静岡 その1
「こだま」という新幹線にはじめて乗りました。はじめてだったから、外国からの旅行者の質問に答えられない。「これは掛川につく?」とか、「これは××系統?」とか、いまの時代にかえって珍しい有線イヤフォンをつけた私にばかり、どうして尋ねるんだろうか。
リニアモーターカーならもっと早く着くのに「こだま」を利用し、静岡に行ったんです。停車駅のならびを見上げながら、バスで腰が痛くなるって距離でもないのに新幹線
2023年 秋の香川 その3
(前回はこちら)
“歌って踊れる似顔絵男女ユニット”の“このよのはる”の長崎リサは大学のころの同級生で、卒業後もたまに遭遇するのでいまだにゆるくつながっている。
彼女は“このよのはる“以前から、渋谷の路上にブルーシートを敷き、ギターを弾き、足を止めた人の似顔絵を描いて生きていた。公園の木の上から雑居ビルの屋上まで、いろいろなところをねぐらにして、雨の日には居酒屋を巡って「流し」をやる。(眠
2023年 秋の香川 その2
(前回はこちら)
はじめに通りかかったお遍路さんはカナダ出身、ニューヨーク在住のファッションデザイナー、船上でのショーの衣装を作っているそうです。一か月前に四国にやってきて、それからこの第七十八番目の巡礼地(「第七十八番札所」という)に辿り着くまで歩いて遍路をしている。
歩いての遍路はとくに「歩き遍路」と呼ぶ。といって、「電動アシスト自転車遍路」とか「ガイドバスツアー遍路」などの呼称は聞か
2023年 秋の香川 その1
ある日ふらっと急に行方不明になった人みたいなおろそかな準備で朝の電車に乗って東京駅で新幹線に乗り換える。自由席に腰かけました。二人掛けの席の窓際です。品川と新横浜ではまだ隣に人が乗ってきてほしくないため、停車するたびに狸寝入りをしました。隣の空席にやや体をもたせかけた姿勢で、軽く嘘のいびきをかく。人はそもそもそんなに乗ってこなかった。近くの席の人からみて私、「あの人、停車するたびに短くて深い眠り
もっとみる2023年 夏の放浪 その6
前回はこちら
5.宿題について
◎一年前
私がはじめて長崎に行ったのは、一年前の夏だった。長崎で暮らす人から、人づてにやってきたお誘いに乗っかったのだった。「ここで過ごしてみたら、きっといろんなことを感じるだろう。感じとったものを制作に反映させてみたら、どんな作品ができるのか、気になります」そういう話だった。しかし、誘い文句には続きがある。
「とはいえ、まったくはじめての場所に急にやってき
2023年 夏の放浪 その5
前回はこちら
4.「ガイドブック」と小説について
◎ 「ガイドブック」について
2冊の本を携行していた。神田千里著『島原の乱』と、遠藤周作著『切支丹の里』を持って歩いて、読みながら、書いてある場所を訪れ、書いてある場所を訪れたら、再び本文を確認する。アニメオタクのいう「聖地巡礼」みたいなことをしていたわけだけれどキリシタン関連の地をまわるのだからこの言い方がややこしい。
『島原の乱』は天
2023年 夏の放浪 その4
前回はこちら
宣教師がやってきた当初、煽られて、寺社仏閣を壊し、火をつけていったグループもある。天草の港で出会った猫おばちゃんの言葉じゃないけれど、「かわいそうなキリシタン」みたいな印象を持っているとピンとこないかもしれない。ただし、扇動者によって仏塔仏像を破壊したり、寺に火を放った背景に、時代のこともあるはず、戦国時代です。中途半端な攻撃じゃ、今度は自分の命がなくなる可能性があるなら極端な行
2023年 夏の放浪 その3
前回はこちら
放浪にでる直前、東京外国語大学でちょっとした講義をした。「空間と公共性」についての連続講義のうちの1回の、ゲスト講師としての授業だった。授業は英語で行わなければならないのに、ぼくのスキルは非常に低く、そのためあらかじめ講義原稿もとい「台本」を日本語でつくり、これを英訳したものを準備していた。(ただし、文法的にまちがいのない言葉を話せたところで、内容が理解されるかどうかはまた別の問