自然と人工

自然や天然といった物事と人工や人為的といった物事は対比されることが多いです。
食品を例に挙げると、天然由来の原料を使用した食品は、いわゆる化学調味料や人工甘味料などの人為的に合成された原料を使用した食品と比較されます。一般的には、前者の方が後者より安心・安全で優れているような印象をつけられていることが多いです。
(消費者庁は2020年7月16日に食品表示基準の改正を行い、食品表示基準から「人工」、「合成」の用語を削除しています(1)。背景として、消費者がこういった用語に悪い・良い印象を持っている場合、これらの用語がついた添加物の不使用表示が実際のものよりも優良であると誤認させるおそれがあるということがあるようです。)


人間中心主義

自然と人工の対比は、人間中心主義的な思想が根底にあると思われます。人間中心主義とは、日本大百科全書(ニッポニカ)によると、以下のように説明されています(2)。

一般に、人間が世界全体の中心あるいは目的であるとする世界観、また、すべての存在者のなかで、人間にもっとも根本的で重要な地位を与えようとする立場をいう。
(中略)
宇宙中心的な古代、神中心的な中世に対して、人間とその主体性をなによりも重視する人間中心的な考え方が近代の一般的なそして基本的な世界観なのである。

伊東祐之, 人間中心主義, 日本大百科全書(ニッポニカ)

つまり、人間中心主義は、人間やその活動に価値を置くような立場ということになります。物事を分類するということは、人間の価値判断に依存する(3)とされます。自然と人工の分類は、人間中心主義を土台とした価値判断が根底にあると考えられます。


自然の連続性

人間(ヒト)は生物の一種です。ヒトを含む地球上の現存する全ての生物は、LUCA(Last Universal Common Ancestor)と呼ばれる共通の祖先を共有しています(4)。そのLUCAは、化学進化によって物質から誕生したと考えられます。つまり、人間も物質から誕生した生物が進化した生物であり、物質や他の生物との連続性があります。よって、人間の活動も自然現象の延長線上にあると考えることもできます。

人間中心主義によらずに、自然物と人工物を考えると、その差は質的な差ではなく程度の差に過ぎないと思われます。都市の建築物、工業製品など人間によって作り出された人工物は、程度の違いはあれども「生物の活動によって作り出された物」という意味では、鳥の巣や蟻塚などと同じです。

また、学問の分類も同様かもしれません。学問を二つに分類する場合、自然科学系と人文科学系に分けられることが多いです。一般的に、自然科学は自然現象の解明、人文科学は人間の文化や社会に関する学問とされますが、これは人間を中心に分類されています。

人間として生活していると人間を中心になされている区別や分類に違和感や疑問を持たないですが、人間中心主義から少し離れてみると世界が違って見えるかもしれません。


参考文献

(1) 消費者庁食品表示企画課. 食品表示基準の一部改正について. 2020. https://www.cao.go.jp/consumer/history/06/kabusoshiki/syokuhinhyouji/doc/200525_shiryou1_1.pdf.
(2) 伊東祐之. 人間中心主義. 日本大百科全書(ニッポニカ)
(3) 渡辺慧. 認識とパタン. 東京, 岩波書店, 1978, (岩波新書).
(4) Mariscal, Carlos. Life. 2021. https://plato.stanford.edu/entries/life/.

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