千夜の夢
「私が眠るまで千年待って」
「千年?」
「そう」
「眠るまで?」
「そうね」
「生まれ変わって会いに来るまで百年待ってという話はあったけど、眠るまでか。それも千年も」
「そう。ひとりで眠るのは寂しいもの」
「君のそばにいられるならそれは願ってもない申し出だけど。いいのかな、僕で」
「もちろん。あなたがいいの」
「でも少し怖いよ」
「私だって怖いわ」
「君も?」
「えぇ、だって千年ですもの。千年もの間、あなたは眠らない私のそばにいてくれるかしら。途中で飽きてしまわないかしら。気味悪く感じないかしら」
「そんなはずはない」
「私は眠るまで千年かかるけど、あなたは太陽と同じ時を過ごすのよ。朝に目覚めて夜に眠って。あなたが眠っている夜の間、私はきっと考えてしまう。あなたが選ばなかった道を。あなたに捨てさせてしまった未来を。私には、千年もあなたのそばにいる価値があるのかしら」
「それを言うなら僕だって同じさ。千年もの間、君を楽しませられるだろうか。僕にそれだけの魅力があるだろうか。君は素敵な人だから、きっと誰からも愛されるだろう。僕が寝ている間に君は誰かと出会ってしまうんじゃないか。誰かが君を見つけてしまうんじゃないか。君が眠った千年後、僕には君の眠りを守るだけの力が残っているだろうか」
「何も心配はいらないのに。私にはあなたしかいないもの」
「それを言うなら僕だって。僕にも君しかいないんだ」
「私が眠るまで千年待って」
「約束しよう。君が眠るまで千年待つよ」