愛を知る人

「あぁ、愛されている、愛している。自分の居場所を持っている人は強いわね。だって、帰る場所があるんだから」
「あなたにはないの?」
「ないわよ」
「どこにも?」
「どこにもない。あるわけない。愛されていないし、愛してもいないんだから」
「それはどうして?」
「…どうして?」
「愛すればいいじゃない。愛されればいいじゃない。あなたはすてきな人だから、きっと誰かいい人がいるわ」
「…」
「どうしたの?」
「…そうやってあなたたちは勝手なことを言う。自分が簡単に手に入れられたから、他者にもその幸福が簡単に手に入ると思っている。価値を知らない。知ろうともしない。知ることもできない。人はそんな簡単に人を愛さないし、そんな簡単に愛されることもないのよ」
「難しく考えすぎなのよ、あなたは。思うままに生きればいい。あなたの心がささやくままに、ともに生きたいと思う人を見つければいい。選べばいい」
「…選ぶ権利を持つ人は、選ばれる価値のある人だけ」
「え?」
「選ばれる価値のない人間が、誰かを選ぼうなんてそんな傲慢、許されるわけがないでしょう?」
「権利とか価値とかの話じゃないわ。そんなのみんなが持っているじゃない」
「あぁ、そう、そうね、そうだわ、あなたには一生分からない。そうでしょうね、そうでしょうよ。愛されて、愛して、そういう普通を当たり前に享受しているあなたには、一生わかりっこない」
「そんな…」
「……お願いだから、もう喋らないで。腹立たしくて吐き気がする」
「…」
「綺麗事なんていらないの。分からないなら黙っていて。放っておいて」
「私はあなたが心配なのよ。自分の魅力に気付いていないだけ。あなたが壁を作りすぎているだけ。もっと自分を信じたっていいじゃない。人を信じたっていいじゃない。考えすぎなのよ」
「それじゃあ…私の人生は何だっていうのよ。私が誰からも愛されず、誰も愛さず過ごしたこれまでを、いったいどう説明するの。誰にも会わなかったわけじゃない、私だって外の世界で生きてきた。ねぇ、世の中の人は常に愛されようと思って生きているのかしら。そのための努力を怠らない人間ばかりなのかしら。違うわよね。違うけど、みんな誰かから愛されて、誰かを愛して生きているんでしょう? その関係が終わってしまっても、次を見つけるんでしょう? それは、とても簡単なことなんでしょうね。…ねぇ、だとしたら、どうして私は、そんな簡単なこともできないのかしら。ねぇどうして…」
「殻に閉じこもってばかりの人にはできないわよ」
「何?」
「そうやってうじうじうじうじと殻に閉じこもって自分を責めているような人には無理でしょうねって言ったのよ」
「…」
「ねぇ、私を信じてよ。あなたは本当に魅力的な人。もっと自分に自信を持ってほしいの。自分で自分の輝きを曇らせてしまっている。あなたにも幸せになってほしいの」
「…」
「お願い、分かって」
「…分かったわよ。ありがとう。あなたが愛される理由が分かったし、私が一生愛されないだろうことも分かったわ。あぁそう、私は、」
「…」
「私は反吐が出るほどあなたが嫌いで、それより何より私が嫌い」