少女融解

「少女はその日、姿を消した。何故」
「家出でしょうか」
「そう考えるのが妥当だな」
「ご両親は事件だと」
「大抵の親はそう言う。育て方を否定したくないからな」
「でも反抗期とかなかったそうですよ」
「反抗期のない子どもがいるかよ。それはそれで育て方を間違えてる」
「じゃあ探さないんですか?」
「家からなくなっていたのはスマホと預金通帳、1週間をしのげそうな服、それから日記だったか」
「今どき珍しいですよね。日記なんて」
「俺はつけてるぞ」
「まじですか」
「食ったもんと推定カロリーを」
「それ健康診断で言われたからでしょ」
「立派な日記だろうよ」
「若い子なんてだいたいSNSが日記みたいなもんでしょ」
「若いやつが何言ってるんだ」
「俺らくらいはまだそこまでじゃないですよ。世代が少し違うだけで全然違うんですから。ほんと、人間の進化ってすごい」
「恋人はいたのか」
「俺ですか?」
「お前のなんか知らねぇよ」
「あぁ。いなかったそうです」
「誰に聞いた」
「ご両親に」
「じゃあいたな」
「どうしてですか?」
「いないと親が断言するなら、それは隠してただけだ」
「決め付け過ぎじゃないですか?」
「そんなもんなんだよ」
「大丈夫かなぁ」
「まぁ男のところだろうな。しばらくすれば戻ってくる」
「一応友人とも話してみます?」
「やめとけ。戻って来づらくなるだろう」
「それもそうですけど…」
「誘拐じゃなくて蒸発だったってことだな」
「蒸発、ですか…」
「そ、誘拐じゃなくて、蒸発」
「はい蒸発…」
「…分かってないな?」
「分かってますよ、家出ってことでしょ?」
「違う違う。誘拐、分かる?」
「え?」
「物体が固体から液体になることを?」
「何ですか?急に」
「いいから。物体が固体から液体になることをなんて言う?」
「溶ける?」
「もっと頭いい言い方しろよ」
「…あ、融解ですか?それが?」
「分かんねぇやつだなぁ…いいか?固体から液体に変わることを融解、人がさらわれることを誘拐、人がいなくなることを蒸発、液体が気体になることを蒸発。…な?」
「ダジャレですか?」
「人は固体なのに、なんで蒸発って言うんだろうな」
「知りませんよ。ちょっと俺、あっちの課でも聞いてみますね」
「心が溶けてドロドロになると、どこかへ行きたくなるもんなのかねぇ」