来世の希望書

「今ちょっと立て込んでて…お待たせしてしまって申し訳ないです」
「いえ」
「書類、分からないところありました?」
「あの、ここなんですけど」
「はい」
「希望の性格ってなんですか?」
「希望される性格をご記入ください」
「いや、それは分かるんですけど…」
「生まれ変わったときにどのような性格になりたいか。すべての希望が通るわけではありませんが、できる限り叶えられるよう我々も尽力いたします」
「性格って選べるんですか?」
「もちろん。せっかく生きてきたんだから、何か未来につながる良いことがあったっていいじゃないですか。優しくなりたい、明るくなりたい、性格だけとはいえ夢が叶うなんてまさに夢のような話でしょ? あぁ、書き方の見本はこちらのようになっていますが、ご自身の言葉で書いていただいて問題ございません」
「これってみんな書いているんですか?」
「もちろん」
「みんな生まれ変わるんですか?」
「そうですね」
「どんなに悪い人でも?」
「魂って、ものすごく貴重なものなんですよ。作るにはコストがかかりますし、作れる人も限られる。だから綺麗に洗ってリサイクルするんです」
「じゃあどんなに悪い人でも、ここに希望の性格を書いて、生まれ変わった先の未来があるってことですよね」
「そうなりますね」
「いいんですか? それって」
「良いか悪いかは私たちが決められることではありませんから。罪を憎んで人を憎まずってことわざもあるじゃないですか」
「…」
「人のことはいいんです。ご自身のことを考えてください。これで来世が少し決まるんですよ?」
「今の性格でなければなんだっていいです」
「今の性格ですか?」
「臆病で、暗くて、人付き合いが下手で…」
「あぁコミュニケーション能力、人気ですよね」
「えぇ」
「こうやって話ができるなら十分だと思うんですけど、これ以上何ができるといいんですか?」
「そう言う方はコミュニケーション能力があるんですよ。たぶん生まれつき持っているから気付かないってだけで、そうやって会話を広げられる、人と笑顔で話せる、そういう能力が何よりも重要なんです。今の世の中は」
「生まれ変わるのが何年後になるのか分かりませんから、流行り廃りのない性格をおすすめします」
「コミュニケーション能力に流行りも廃りもないでしょう」
「そういうものですかね?」
「えぇ」
「では、そちらにご記入ください」
「…何個まで書けるんですか?」
「数は自由ですが、書いたもの全てが叶うわけではありません。ひとつに絞って確率を上げるか、複数書いてラッキーを狙うか、人生最後の大博打というやつです」
「皆さん、すぐに書けるものなんですか?」
「人によりますね。ここだけの話、こうしてずらっと並ぶ机のいくつかはもう何年も同じ人が座っていたりしますよ」
「いいんですか? そんなんで」
「魂はその方のものですから特に問題ないかと思いますが」
「私の…前の人は、どう書いたんですか」
「個人情報はお教えできないんですよ」
「前って、前にこの机を使っていた方ではなく、…私に生まれ変わる前の人です」
「あぁ」
「どう書いたらこんな性格になるんですか。全部の希望が通らないと、こういう残りカスになるんですか」
「全部の希望が通らないなんてことはありません。言ったじゃないですか、できる限り尽力しますって。必ずひとつは叶うようになっています」
「ひとつ」
「えぇ。必ずひとつは希望した性格が入っている」
「私にも?」
「もちろんです」
「どこなんですかね、それって」
「それは前世と呼ばれる方にしか分かりません。でも絶対あるんですよ。同じ魂を持って生きた誰かの願いが、未来への希望が、憧れが。叶った夢のかけらが。あなたの中に確かにあるんです」