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【密教】両界曼荼羅

七世紀以後のインド中期〜後期密教は尊形(如来・菩薩・明王・諸天の像)、三昧耶形(輪宝、宝剣、金剛杵や蓮花などの法具)や種子(サンスクリット文字)などを対象として瞑想する瑜伽観法を生み出しました。同時に、有名な曼荼羅(マンダラ)を生み出しました。曼荼羅も観法対象に変わりないのですが、それ以上に密教が持つ宇宙観の象徴の具像化ともいえ、一種の芸術性をも感じさせます。

日本において有名な曼荼羅と言えば、胎蔵曼荼羅(胎蔵界曼荼羅)金剛界曼荼羅であり、この二種類で両界曼荼羅とします(しかし、チベット密教ではこれら両界曼荼羅以外にも多くの曼荼羅が残されています)。

日本密教ではこの二種が両界曼荼羅としてセットのようになりますが、もともとインドでは別個に出来上がったものであり、対になったのは中国においてです。空海がその伝統を日本へ持ち帰り、日本密教ではそれが一般化したのです。鎌倉時代以降、金剛界と胎蔵を男女に配したりする見方も出てきました。

※両界曼荼羅のフリー素材はないようですね、流石に(笑)。
興味がある方はWikipedia画像や高野山金剛峯寺のHPなどを参照されてください。

○胎蔵曼荼羅

胎蔵曼荼羅は大悲胎蔵曼荼羅といい、母親が子供を慈しみ育てるように、仏が大慈大悲によって衆生を救う精神を絵の形にしたものとされます。

胎蔵曼荼羅の中心は、大日如来を取り囲む四如来と四菩薩大士よりなる中央の中台八葉院であり、上が東に該当します。

【中台八葉院】
中央 定印の大日如来
東  与願印の宝幢如来
南  施無畏印の開敷華王如来
西  定印の無量寿如来(阿弥陀如来)
北  触地印の天鼓雷音如来
東南 普賢菩薩
南西 文殊菩薩
西北 観音菩薩
北東 弥勒菩薩

中台八葉院の、
真上には遍知院【中︰三角形の一切如来智印、右︰大勇猛菩薩、普賢延命菩薩、左︰仏眼仏母菩薩、七具胝仏母菩薩】、
真下には持明院【中︰般若菩薩、右︰降三世明王不動明王、左︰大威徳明王と勝三世明王】があり、これら三つの院が仏部という部族に該当します。

これらの左側が観音院(蓮花部院)【縦に七尊ずつ三列配置され、内側縦七尊の中央は聖観音菩薩】です。
そして、右側が金剛手院(金剛部院)【縦に七尊ずつ三列配置され、内側縦七尊の中央は金剛薩埵】になります。

その更に上部には内側から釈迦院(釈迦如来を中心に虚空蔵菩薩や観自在菩薩、十大弟子なども配置)と文殊院(文殊菩薩を中心に普賢菩薩や観自在菩薩なども配置)、下部には虚空蔵院(虚空蔵菩薩中心)と蘇悉地院、左側に地蔵院(地蔵菩薩中心)、右側に除蓋障院があり、全体を最外院が取り囲んでいます。現図の曼荼羅は以上の十二の院よりなりますが、図には現れない四大護院を含めて、十三大院で構成されるのが原則です。

成立は胎蔵曼荼羅の方が先と言われており、金剛界曼荼羅と比較すると、より大乗仏教時代からの如来や菩薩が多く登場しています。

○金剛界曼荼羅

金剛界曼荼羅とは金剛石のように永遠に壊れることのない覚りを意味します。また、九つの部門に分かれて諸仏が配置されているため、九会曼荼羅ともいわれます。

金剛界曼荼羅は「金剛頂経」系の「真実摂経」に基づいて描かれているとされます。九会のうち、中央に位置する成身会がこの曼荼羅の中核をなし、以外のような配置になります。

⑤四印会 ⑥一印会  ⑦理趣会
④供養会 ①成身会  ⑧降三世会
③微細会 ②三昧耶会 ⑨降三世三昧耶会

【成身界】
《三十七尊》

中央 智拳印の大日如来
   仏部
   白の色彩
   獅子の座
   塔の三昧耶形
   法界体性智
東  触地印の阿閦如来
   金剛部
   黒の色彩
   象の座
   金剛の三昧耶形
   大円鏡智
南  与願印の宝生如来
   宝部
   黄の色彩
   馬の座
   宝珠の三昧耶形
   平等性智
西  定印の阿弥陀如来
   蓮花部
   赤の色彩
   孔雀の座
   蓮花の三昧耶形
   妙観察智
北  施無畏印の不空成就如来
   羯磨部
   青の色彩
   金翅鳥の座
   羯磨の三昧耶形
   成所作智
◎  四波羅蜜菩薩と十六大菩薩
   大日如来の四方︰四波羅蜜菩薩
   四如来の四方︰各々の四親近菩薩(十六大菩薩)
○  内四供養菩薩
■  外四供養菩薩四摂菩薩

《その他》
   
賢劫の千仏
   
外金剛部(最外枠に描かれた異教神など)

⑤四印会 ⑥一印会  ⑦理趣会
④供養会 ①成身会  ⑧降三世会
③微細会 ②三昧耶会 ⑨降三世三昧耶会

②~④は三十七尊の配置こそ①と同じですが、①成身会とは異なる形で表されています。その他にも外枠の賢劫の千仏が十六代菩薩に変化している等、いくつかの細々した変化があるようです。⑧降三世会は十六大菩薩の一尊である金剛薩埵が降三世明王に置き換わっており、⑨降三世三昧耶会は⑧降三世会を三昧耶形(その仏を象徴する持ち物等)で表したものです。ちなみに、①成身会を三昧耶形で表したものが②三昧耶会です。

三昧耶曼荼羅とは仏の持ち物である輪宝、剣、金剛杵や蓮花などの三昧耶形によって描いた曼荼羅です。②や⑨がこれに該当します。そして、①のように尊形で描いた曼荼羅を大曼荼羅といいます。その他、宇宙の本源的な音声を文字で表現した梵字(種子)で描かれた法曼荼羅や、宇宙の本源的な活動力を示した羯磨曼荼羅があります。③微細会は金剛杵の中に各尊形で描かれてはいるものの、本源的音声の象徴とされ法曼荼羅に該当します。④供養会は諸仏の供養の働きを描いた、供養の活動力を象徴するため、羯磨曼荼羅になります。

⑤~⑦は基本形である①成身会と配置が大きく変化しています。⑤四印会は「大日如来、金剛薩埵、金剛宝菩薩、金剛法菩薩、金剛業菩薩」、⑥一印会は「大日如来」一尊のみ、⑦理趣会は「金剛薩埵、四金剛菩薩、内四供養菩薩、外四供養菩薩、四摂菩薩」の十七尊より成ります。

金剛界曼荼羅では仏部・蓮花部・金剛部・宝部・羯磨部の五部となり、五仏がそれぞれの部の代表格となります。胎蔵曼荼羅と異なり、下方が東となります。

インド後期密教では、「大日経」系統の密教が勢力を失っていき、「金剛頂経」系統の密教が栄えていきました。それにより、曼荼羅も金剛界系統がほとんどになっていきます。八世紀以後、金剛界曼荼羅は更に変化していき、男女合体像の登場、忿怒形や多面多臂像が増加していきます。