【大乗仏教】六波羅蜜(十波羅蜜)
大乗仏教の菩薩の修行徳目として、六波羅蜜もしくは六波羅蜜多(六種のパーラミター)が説かれています。初期大乗経典である『般若経』に関する記事でお話しした内容と重複するところもありますが、第六番目の「智慧の完成」が先だってこそ、他の五支は完成(五波羅蜜)となります。
また、第六番目の「智慧の完成」=智慧波羅蜜から派生した「方便波羅蜜・願波羅蜜・力波羅蜜・智波羅蜜」を加えた、十波羅蜜も登場します。十波羅蜜で説かれる際の第六番目は区別のため、「智慧波羅蜜」ではなく「般若波羅蜜」または「慧波羅蜜(万有の真相に通じる)」と表記されます。
○智慧波羅蜜の多様性
・善巧方便
善巧方便は『八千頌般若経』において、「智慧の完成」と一緒に登場しました。自身の修習の対象と方法、及び他の有情を教化するための道の種別の全てに通暁する智慧(道種智)とされ、これは「巧みな手だて」の智(救いの智)を指します。「巧みな手だて」は自他の救済のための全ての方法であり、まず何よりも人無我・法無我・無自性=空に通じる手だてのことです。
・功徳廻向
「智慧の完成」こと智慧波羅蜜は、五波羅蜜や随喜で得た善根・功徳(未来の幸福・楽果)を、覚りの智慧へと廻向(転換)することができます。『八千頌般若経』で登場した廻向です。もう一つが他力廻向であり、善根・功徳を他の有情の幸福・楽果へと廻向(転換)して救うこともできます。『浄土三部経』にて登場しました。心的要素・物的要素のいずれも「空」から分化したものであれば、その共通の本体を通じて自業自得を覆せるという凄いものでした。
・二次的な智慧波羅蜜
真言(マントラ):
仏塔(ストゥーパ)のように、智慧波羅蜜自体が崇拝の対象でもあり、現世利益や覚り(全知者性)を与える呪術・呪文でもあります。
大乗経典:
覚りという目的に到達するための導きとなる書物(大乗経典)を智慧波羅蜜と呼ぶことがあります。それを書き記し、書物の形にして、習い、覚え、唱え、理解し、宣布し、説き、述べ、教示し、読誦するだけでも多くの福徳を得ることができるとされます。『般若経』や『法華経』などで説かれました。
仏母:
この智慧波羅蜜は供養されるべき完全な覚りを得た如来達の母であり、生みの親であると説かれます。供養されるべき完全な覚りを得た如来達の全知者性は、このように智慧の完成より生じたのです。
智慧波羅蜜から派生した「方便波羅蜜(限りない救いの智慧を起こす)・願波羅蜜(無限に智慧の啓発を求める)・力波羅蜜(如何なる悪魔や異端者の侵害も許さない)・智波羅蜜(一切現象の常に流れる真実相をあるがままに説明する)」の四波羅蜜は、智慧波羅蜜が持つこれらの側面を分けて現したものと考えられます。これら十波羅蜜は、初期大乗経典『華厳経』に登場する菩薩十地と関連付けされています。