顔のない貌

自己と他人、それを分けるものは何だ。至って簡単かつ単純、線という名の認識を何処に引くかだ。きっとそれは人によって違う。肉体を通した部分に引く者もいれば精神を通した部分に引く者もいる。そうして自己を確立して生きている。
私?ワタシは……。

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おはよう、おはようございます。
今日も人が死んだ。いつものように死んだ。爪を剥がされて目を抉られて膝を叩き割られて死んだ。今日も犯人が捕まった。いつものように捕まった。据わった目をして笑顔を絶やさないで翻訳できない言語で供述を吐きながら捕まった。
もうここ十年はこうして今日が過ぎている。
昔は誰もが怯えていたけれどもうそんなことは無い。猟奇殺人のニュースは日常生活に組み込まれているから。あぁ、今日も死んだんだなって思ってそれで終わり。理解できない殺害より恐ろしいのは会社の上司や妻、それから先生。
ずっとこうして今日が過ぎていく。

【続く】

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