多重転生なんて聞いてない!


地球という星が存在する世界の唯一にして絶対の法則は、“人生に絶望した状態でトラックに轢かれて死ぬと異世界に転生する”である。

◆◆◆◆◆◆

その瞬間の私は高校生で、人生に絶望していた。理由は今はとても話したくはない。けれど、誰にも負けないくらい、深い絶望の中にいた。
丑三つ時の街中をあてもなくふらふらと彷徨うことだけが楽しかった。自然の光が恐ろしかった。朝日も夕日も眩しすぎて灼かれてしまう気がして。逃げに逃げてようやく見つけた安息の地。道路沿いの橙色をした街頭にぼんやりと照らされた静謐な暗闇。染み付いた絶望を追い払い自分らしくあれる時間。
でも。
ああ、朝日が登る。丑三つ時という安息が奪われ、また泥より重い輝きが世界に満ちていく。痛みを与える暗闇が包み込んでいく。
“人生に絶望した状態でトラックに轢かれて死ぬと異世界に転生する”という都市伝説がある。私は都市伝説なんて信じるたちじゃない。だから、あれは本当にただの事故だった。
ハンドルを切り損ねたトラックに轢かれたのは。

意識を取り戻して最初に目に入ったのは、現代日本では見ることもできないような部屋だった。
中世風、とでも形容すればいいのだるうか。そう言い表すにしては妙にアジアンテイストなようにも思える。少なくとも病院ではない。心なしか視界も狭い。しかし感覚的に目に異常があるようにはとても思えない。ふと思う。
まさか、都市伝説は本当だったのか?
ぐわっと赤子の鳴き声が聞こえてきた。周囲の存在が喜びの声を上げている。暖かな空気が肉体を包み込んでいる。鼻にツンとくる匂いがする。そうして理解した。この泣き声を上げているのは私なんだと━━。
待て。
違和感がある。このおぎゃおぎゃ泣いているのは私か?いいや、違う。この肉の器にいるのは確かに私なのに全く別の意思が産声を上げている。奇妙だ。思わず辺りを見回した。
『ひっ!?』

【続く】

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