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香港から特区旅遊ビザを取得して中国(深圳経済特区)に入国する

0.はじめに

 長く続いた新型コロナウイルス感染症の蔓延も漸く終わり、東京の街から姿を消していた外国人も、今やあちこちで目にするようになった。また、まだコロナ前ほどではないものの、周囲でも海外に足を運んだという話を頻繁に耳にするようになった。

 ウクライナ紛争(本当に早く止めてほしいものだ)に伴う物価高と円高で、流石に昔のように「年に一度はヨーロッパ旅行」などという贅沢はできなくなったが、それでも、昨年のベトナム、ハノイ、今年の香港、深圳と少しずつ海外旅行に行く機会があった。

 コロナ前は、まぁ、政治的には当時から色々とあったけど、上海など中国も航空券も安く、手軽な旅行先だったが、コロナが終わった今でもビザの免除は再開されていない。

 昔は日本人であればノービザでも15日間の滞在が許されていたのだが、コロナでノービザ入国が停止されてそのままになっている。従って、日本人が観光や短期商用で中国を訪れるには、原則としてビザを取得しなければならない。

 首都圏の場合は航空券やホテルを予約した記録とパスポートを持って、東京、有明のビッグサイトの近くにあるらしいビザセンターに往訪し、手続きをしないといけないらしい。しかも即日発給されるわけではなく、数日かかる(…ということは再度受け取りに行かなければならない)のだとか。

 ただ、いくつか例外はあって、日本人でもトランジット(第三国から中国に到着し、別の第三国に向けて再び出国する場合)であれば、到着地の空港において、条件次第で72時間、又は144時間のトランジットビザが発給されるらしい。それと、厦門、珠海及びこれから説明する深圳については「特区旅遊ビザ」というアライバルビザがあり、これを現地で申請し、発行を受ければ、それぞれの都市限定ではあるが中国に入国できる。

1.特区旅遊ビザの基本

 また、前置きが長くなってしまって恐縮だが、そんなわけで、このテキストは香港から特区旅遊ビザを取得して中国・深圳に入国するノウハウとなる。

 まずは最初にこの深圳経済特区における特区旅遊ビザのルールを整理しておく。

  •  期間は最大5日間

  •  深圳市内(深圳経済特区)内のみ滞在可

  •  シングルビザ(入国は1回のみ、再入国は再申請が必要)

  •  パスポートの有効期間が6か月以上残っている必要がある

  •  パスポートの査証欄に空白ページが必要(1ページ丸々シールを貼られます)

  •  入境地点は宝安国際空港、羅湖口岸、皇崗口岸、蛇口口岸(港)のみ

  •  変更不可(事後に他のビザに変えることはできない)

  •  定員があるようで、必ず発給される保証がない

 特に入境地点が制限されているというのは重要で、例えば利用者が多い西九龍の高速鉄道の駅(ここにも口岸があって、高鉄のホームは中国本土の扱いになる)は指定されていないので、このビザを利用する場合、高鉄で深圳入りすることはできない(深圳から香港に戻ってくるときは利用可能)。

 また、上記のとおり、宝安国際空港や蛇口港ではアライバルビザを取得できるので、例えばANAの羽田〜深圳便や香港国際空港で出国せず、そのまま高速船に乗って深圳入りすることも理論上は可能だ。

 ここで、「理論上」と書いたのには当然理由があって、この日本(あるいは第三国)から香港を経由せず直接深圳に入国する方法は、可能なら避けた方が良いらしい。

 …というのも、上記のとおり、口岸ごとにビザの定員があるようで、ビザの発給が確実ではないことによる。「それなら香港に一旦撤退して、再度朝一番でトライすれば良い」と考えるかもしれないが、この直接入国のパターンの場合、それは許されない。「入国できない場合は出国した国に戻る」というルールになっているようで、即ち、羽田空港から宝安空港に飛んできた場合は再び羽田に戻らなければならないのはもちろんのこと、香港国際空港経由で蛇口港に来た場合も、香港国際空港での香港への出国が許されず、この場合も日本(又は発地となる第三国)へ戻らなければならないらしいのだ。よって、日程が許すなら、一旦香港に入国して、香港から羅湖、皇崗、蛇口に向かう方が良いと思う。

 また、皇崗口岸は24時間オープン、羅湖も朝早くから夜遅くまでオープンしているらしいが、ビザの発給手続きは査証事務所が開いている9時〜17時でないと受付をしてくれない。この点も要注意だ。

 また、羅湖の口岸はある程度香港の交通事情をご存じの方であればご承知だろうが、MTR東鉄線の終点がそのままボーダーになっていて大変便利な場所だが、それゆえにこのアライバルビザの発給も結構混雑するらしい。上限数があるということなので、時間次第では「今日は定員いっぱいで発給できません」と言われる可能性が一定程度発生する。

 もちろん、香港空港からフェリーで蛇口港に向かうこともできるだろうが、色々と情報を集めた限りでは、香港から皇崗口岸までバスで出て、そこから深圳に入国するのが、査証事務所も空いていて確実らしいということであった(深圳側は皇崗口岸から地下鉄に乗車可能)。よって、筆者は香港から皇崗口岸へバスで向かうことにした。

2.香港から皇崗口岸へ

 皇崗口岸に向かうことを決めたら、次は香港の何処からどのように行くかを考えなければならない。
 ちなみに「皇崗口岸」というのは中国側の呼称で、香港側は「落馬洲口岸」と言う。

 ざっくり言えば、MTRで落馬洲駅まで行って、そこから「皇巴士」なるバスに乗るか、香港各地から出ている直通バスに乗るか、というのが主な選択肢だろうか。このルートは香港側の落馬洲口岸と中国(メインランド)側の皇崗口岸が離れていて、バスで移動することになるため、落馬洲口岸まで辿り着けば良いと言うことにはならないので注意する必要があるかも知れない。(もしかしたら、落馬洲口岸から皇崗口岸の間だけ乗せてくれるバスもあるのかも知れないが、今回筆者はそのようなバスを使ってないのでちょっとわからない。)

 結局、筆者は湾仔から「跨境全日通」というバスを使って皇崗口岸に向かうこととした。このバスは旺角からも出ていて、そちらの乗車記はネットでもいくつか見つけることができた。湾仔もバス乗り場は大変わかりやすいところにあって、MTR会展駅B2出口の目の前。バスもほぼ24時間、2〜30分おきに頻発しているので使いやすい。途中、MTR湾仔駅近くのバス停にも停車し、深夜はこちらが始発になるようだが、深夜は前述の通り査証事務所が開いてないので、使うことはないと思われる。

 チケットは乗り場近くに売場があるのでそちらでも買えるが、もし、手元にOctopus(八達通)カード(ひらたく言えば、香港の "Suica")があるなら、それで乗ってしまった方が早い。当然だが、iPhoneを使って居られる方はApple Payの Octopusでも問題なく使える。2024年2月現在で現金、IC(Octopus)共に片道57香港ドル(深夜は63香港ドル)。

湾仔の皇崗口岸行きチケット売り場。写真には写っていないが、この正面にバスが停まる。

 ここで、持っておくべきモノを説明しておく。

 ・ パスポート(査証欄に空白ページのあるモノ:上記)
 ・ 水性ボールペン(黒色)又は万年筆(黒、ブルーブラック等)(消せるタイプは不可)
 ・ スマートフォン(ahamo推奨、あるいは中国国内で使用できるSIMを積んだもの)

 古い情報だと、一時期中国で「これがないと何処にも行くことができない」と言われた健康コードの事前取得が必要とされているものもあるが、これは今は廃止されている。少なくとも深圳の市内を歩いていて、健康コードの提示を求められたケースはなかった。この点、中国でも日本同様にコロナ対策は緩和されている。よって、健康コード関係の準備は不要だ。

 パスポートについては前述したとおり、査証欄に空白ページがあることが条件となる。これは実際にやってみればわかるが、1ページ丸々査証のシールが貼られてしまうため、貼るところがないと物理的に査証を付することができない。

 2点目の黒の水性ボールペンについては一応、査証事務所にも備付けがある。しかし、往々にしてインクが切れていたり、誰か他の人が使っていて待たされたりするので、1本持参した方が良いというだけの話だ。ここで注意すべきは、「油性ボールペンは不可」という話だ。日本ではボールペンの油性とか水性とか気にすることはないのかもしれないが、中国では役所に出す公文書について油性ボールペンで記入すると却下されることがある。よって、意図して水性ボールペンか万年筆を用意していくのが良い。(これはビザとかに限らず法人登記とか他の文書についても同様だ。)

 3点目のスマートフォンはビザを取るだけであればほぼ関係ない(但し、手続き書類に携帯番号の記入欄がある)。ただ、ご承知のとおり、深圳に入境したあとはほぼデフォルトがスマホ決済になるため、あった方が圧倒的に便利になる。それも、できれば Aripay をインストールして、本人確認とクレジットカード登録も事前にしておくと良い。(筆者は Aripayではなく Wechatpay で臨んだが、買物とかはできたものの地下鉄で何故か使えず往生することになった。Aripayは地下鉄でも使えたのでこちらを推奨しておく。)
 また、スマホはahamoを使っている方なら20GBをそのまま海外でも使えるし、香港も中国も対応国なので、ローミングだけ入れておけばそのまま使える。もちろん、中国で使えるSIMを用意しておき、口岸で査証発給を待つ間に差し替えてしまうのでも良い。(香港用のSIMは本土では使えないことが多いので要注意。)

 さて、話を戻して、Octopus でバスに乗るのであれば、面倒くさい手続きは必要ない。他の香港のバスと同じように、いきなりバスの乗降口に行って、リーダーに Octopusをかざせば良い。あとは、そのまま椅子(あまり綺麗ではないが、革張りだった)に座って出発を待てば良い。

皇崗口岸行きバスの車内。

 時間が来ればバスはそのまま出発し、前述の通り湾仔の駅近くでも客を乗せて高速道路を北上していく。青衣の港をかすめて、緑濃い新界の森の中を走り抜けて、バスは3〜40分ほどで落馬洲の香港側口岸に到着する。一旦、バスを下車(荷物は全部持って降りること)して香港側の出境手続きを行う。こちらは普通に出国審査官にパスポートを出せば、恐らく問題なく出境できる。無事に手続きが終わったら、そのまま矢印に従って進めば、乗ってきたバスが先回りして待っている(万一、乗れなくても同日であれば同一事業者の別のバスに乗れるので心配は無用。湾仔線と旺角線を合わせると10分待たずに次のバスに乗れるはずだ。)。

 再びバスに乗ると、もう遠くに深圳の高層ビルが見えてくるはずだ。5分ほどでバスは皇崗口岸に到着する。

深圳の高層ビル。

2.皇崗口岸から入境する

 口岸の建物に入ったら、いきなりゲートには向かわず、左手の査証事務所の窓口に向かう(割とこぢんまりとしている)。

 そこで、まず窓口で番号札をもらう。

 次に窓口前のカウンターで申請書類に記入。A4で1枚なのでそんなに手間ではないものの、深圳における宿泊先を記入する欄がある。中国のホテルではチェックイン時に必ずパスポートをスキャンすることとされていて、この情報は地元の警察に自動的に転送されるらしいので、宿泊予定があるなら正確に記入しておくべきだろう。日帰りであれば「Day Trip」と書いておけばよいと思われる(少なくとも筆者はそれで済んだ)。

 その後、窓口横の機械で顔写真の撮影。これは無料で行ってもらえる。逆に言えば、証明写真を持っていけば良いと言うことではなく、全員その場で撮影となる。ちなみに、椅子に座って機械を操作すると上から自動的にカメラが降りてきて、パシャッと撮られる。撮られたらレシートをもらって、受付番号を書かれた紙、パスポート、申請書類とともに窓口へ提出する。なお、この機械は残念ながら日本語表示はないが、英語を読めばまあ操作できるだろう。

 この後は暫く待機。ベンチくらいしかないところなので、手持ち無沙汰になる。早ければ10分程度で出た人も居るようだが、筆者は30分ほど待たされて窓口に呼ばれる(確か名前を呼ばれたと思う)。窓口でクレジットカードを示して手数料(今は130人民元:約2,600円ほど)を支払えばビザが発給される。

 あとは、そのまま先にある入国ゲートに行き、入国カードを記入し、査証の貼られたパスポートを呈示し、4指の指紋を採られたら晴れて入国となる。当然、入国審査官に質問をされる場合もあるだろうが、筆者は何も聞かれずそのまま入境できた。

3.入境後のあれこれ

 入境して、審査場の建物を出ると、屋根のある通路が前に続いている。そこから深圳の市内バスなどは乗れるようだが、そのまま真っ直ぐ進むと目の前に両替所があるので、必要な金額はここで両替できる。あまりレートは良くなかった気もするが、日帰りとかだと両替所を探すだけでも時間がもったいないし、後述する Aripay(Wechatpay)を使うなら現金はあまり使わないので、両替は必要最低限で良いのではないかと思う。

審査場を出たところ。奥に見えるのが両替所。

 両替を終えたら更に先に進み、長い歩道橋を延々と歩く。歩道橋を降りたら右手に少し進むと深圳地鉄の皇崗口岸駅があり、ここから深圳市内各所に出ることができる。

深圳地鉄・皇崗口岸駅。

 ちなみに筆者はここで、クレジットカード登録した Wechatpay で改札を通ろうとして1時間ほどスマホと格闘(買物はできても自動改札は通れず、チケットも買えない)することになり、結局その場で Aripay をダウンロードしてパスポート登録、クレジットカード登録をする羽目になった。注意されたい。

 深圳で Aripayを使って地下鉄に乗る方法は↓参照のこと。
 「中国旅行に、アリペイが日本人にも超使えて便利になっていた件」
 https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/column/minna/1561057.html

 その後、筆者は結局「深圳の秋葉原」と言われる華強北をフラフラ歩いて香港に戻ったのだが、帰路は深圳の中心部にある高鉄(高速鉄道)の福田駅から西九龍の駅まで高鉄で戻ることにした。往路は西九龍でビザが出ないので高鉄は使えないが、帰路はどの口岸からでも香港に戻れるようだ。そちらの手順も参考までに記載しておく。

 駅に着いたら迷わず有人窓口に向かう。自販機があちこちにあるが、これは中国人民なら誰でも持っている身分証明書(IDカード)保持者しか使用できない

福田高鉄駅の有人窓口。

 窓口ではパスポートを呈示して、どの列車に乗りたいかということと香港西九龍まで行くことを示す。筆者は「Hong Kong! Next Train!」とか窓口で叫んでいた気がするが、漢字の通じる国なので、紙に書いてパスポートとともに窓口に出すのがスマートだろうと思う。或いはTrip.com」で予め予約をしておいて、その予約番号とパスポートを窓口に提出するのも良い。決済はクレジットカードが可能だったはず。
 チケットが発券されたらまず待合室に入るいきなりホームには入れてくれない。これは哈爾浜、長春でもそうだったので、恐らく中国全土共通のルールだ。待合室に入るためにはチケットとパスポートが必要になる。また、セキュリティチェックもある。まぁ、中国は地下鉄にちょっと乗るのでも荷物のX線検査があるため、もう慣れるしかない。(逆に日本の新幹線などはセキュリティチェックなしでバンバン乗せてしまって良いのかと少し心配になる。)
 あとは待合室で改札が始まるまでひたすら待つ。大きい駅なら改札内に売店とかあるのでひやかしてみても良いかも知れない。(Aripay/Wechatpayが使えるなら大量にあるマッサージチェアを試してみるのも良い。)
 改札が始まったらこれも迷わず有人窓口に向かう。オートゲートも一応パスポートも読むらしいが、外国人は基本的に有人対応になる。オートゲートは放っておいてもIDカードを持つ人民が列をなす。
 あとはホームに向かい(改札がそもそもホームごとなので、「俺の乗る列車はどのホームか…」などということはこの時点ではない。待合室の中で自分の乗る列車がどの改札=ホームかを確認しておく必要はあるだろう。)、指定された号車、座席に座れば良い。言うまでもなく全席指定だ。

香港西九龍行きの高鉄の電車。

 車内は、特に香港MTRの車両だとデザインも洒落ていて、日本の新幹線と遜色なく快適。但し、福田→西九龍間は20分も掛からないのであっという間に到着する。それなら車内ももっと簡素でも良かったのかも知れない。前述の通りチェックが厳重なので、あまり乗客が押し寄せても困るのかも知れないが。
 そのまま出境審査も何もなく、電車は西九龍の駅に到着する。
 駅を降りて、人の流れに沿っていくと「中国海関」と書かれたゲートに到着する。そう、九龍半島の突端近くの地下に中国本土のボーダーがある。人民の皆様や香港住民の皆様は迷わずオートゲートに進んでいくが、我々外国人は当然通過できないので、有人窓口へ。ここでパスポートを出してスタンプを押してもらって、めでたく本土から出境する。この後、香港側の入境ゲートに向かうのだが、途中、足下に一本の黄色い線が引かれていて、中国本土の管理下と香港特別行政区の管理下が区切られている。(高鉄が香港まで開通したときには、本土と香港のボーダーがこんなところに作られることに反対の声も多かったと聞く。)
 そして、香港側の入境ゲートに着いたら、再び入国カードを書いて有人ゲートで審査を受けてめでたく香港に戻ることとなる。なお、書き忘れたが、「e-道」(香港の無人入出国ゲート。日本人でも年3回以上香港に行ったり、航空会社の上級マイレージ会員とかであれば登録可能。)を使える方はここでも使用可能だ。

 

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