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【台湾建築雑観】設備工事(そのニ)

今回は、給水設備工事について説明します。
排水設備と異なり、給水は各住宅の室内で配管されるので、台湾と日本で変わりないだろうと思われるかもしれませんが、住戸ユニットに入れる前の全体システム計画の考え方が異なります。ここにも様々な常識の違いがあります。

日本の給水設備工事

まず、日本の場合で公共の水道からどのような経路を辿って建物の中に入り、それぞれの住戸ユニットに給水されるのかを見てみましょう。

給水システム

日本の給水設備では、中・低層の集合住宅では、受水槽を設けずに直接公共の水道管から給水する場合もよく見られます。受水槽設備を設けないわけです。
高層のプロジェクトの場合、いったん最上階までポンプアップしてから重力で給水する方法も取られます。その際には、充分な水圧が得られるように、受水槽を高いところに置くか、或いは給水配管に加圧装置を設けて給水することになります。

受水槽

受水槽を設ける場合、一般的にはFRPの既製品ユニットを用いることが多いです。これは工場生産品を使って防水の性能を担保すること、工期の短縮を図ることなどが理由で、一般的に採用されています。

また、直接給水の場合、受水槽は設けなくなることになりますし、受水槽を設ける場合でも、その容量は一日分の量が標準になります。

PSの計画

各階を貫くパイプスペースの縦配管には、給水のメイン配管のみが通されそれが分岐して各住戸に配管されていきます。イメージとして木の幹の部分がパイプスペースの縦配管で、各階に枝としての横配管が延びているという給水システム計画になります。

水道メーター

水道メーターは、各住戸に近接したところに置かれます。通常玄関周りのメーターボックスに、ガスや電気のメーターと合わせてセットで置かれていますね。

室内への給水配管

玄関に設けられた水道メーターからは、日本の場合床下を通して室内に持って行く場合が多いと思います。
最近の住宅では、騒音への考慮から、コンクリートへの直張りの仕上げは避けられるようになり、鋼製床下地を設けて、コンクリートスラブから10cmから20cmほど高く持ち上げて施行されることがほとんどです。そして、そうなると鋼製床下地の下の空間を使って諸々の配管をすることができるわけです。給水配管もそのようにして施工されます。

台湾の給水設備工事

さて、上記に説明した日本の給水計画が、台湾ではことごとく異なります。その理由は後で考察しますが、まず先に事象として異なっていることを説明します。

給水システム

台湾の給水システムは、低い建物でも直接給水とすることがありません。低層の集合住宅を見ても屋上に給水タンクを載せている建物をよく見ます。大規模な集合住宅になると、塔屋の二階あたりに受水槽を設置し、そこから給水することがほとんどです。
そして、日本の場合と同じように加圧ポンプを使ったりして必要な水圧が出せるように調整しています。

受水槽

受水槽は、戸建て住宅の場合スチール製のタンクを屋上に載せているケースをよく見ますが、中規模以上の集合住宅では、塔屋にコンクリート製の受水槽をも受けることがほとんどです。最近一部のディベロッパーがFRP製の受水槽を採用している様子ですが、大多数はコンクリートのものを計画しています。

また受水槽の容量は、台湾の設備計画では3日分となっています。これは日本と比べると3倍の容量の水を準備してする必要があり、平面的な大きさにしろ、重量にしろ、大きな負担になります。

水道メーター

水道メーターの位置は日本と大きく異なります。台湾ではこれは玄関脇に置かれることはありません。基本的に、全ての住戸の水道メーターは屋上、或いは塔屋の中に設置されているのです。表紙に使っている写真がその様子です。屋上階にコンクリートの壁を準備し、そこに住戸の数全ての水道メーターを設置することになります。

このようになっている理由は、過去の給水計画がそうなっているので、それを踏襲しているわけですが、僕はこれは台灣自來水公司の、メーター検診の利便性のためであると理解しています。
給水計画として、このように不合理極まりないことになっている反面、その利便性はというと、水道会社が各住戸の水道メーターの検診をする際に、彼らは屋上に、或いは塔屋階にのみ行けば良いわけです。この、利権というか、台灣自來水公司がこれ以外の給水計画を認めないという風になっており、そのために、全ての住戸の水道メーターが1ヶ所に集められるという計画になっています。

PSの計画

上記の条件により、台湾の集合住宅では、屋上或いは塔屋の水道メーターから、それぞれの住戸にまで配管を通さなければなりません。仮に100住戸の計画であれば、PSの中に100本の給水配管を屋上から各住戸に配管しなければいけません。これは大変な量です。
この難しさは、それぞれの階でものすごい量の配管を通すだけでなく、屋上の水道メーターから、どのようにPSまで配管するかも大きな問題になります。

日本の給水システムが、木の幹と枝というイメージであるならば、台湾の給水システムは、一つの根から生え出た竹のようなものでしょうか?ヒエラルキーを持って分散していく幹線と枝管というシステムではなく、すべてが根元で分かれて住戸の先まで繋がれている、一様な配管になっています。

室内への給水配管

最後に各階のPSから住戸内への配管も異なります。台湾では標準的な床仕上げが、コンクリートスラブの上のタイルまたは石材の直仕上げとなるため、高床方式になっていません。従って床下で給水配管を処理することができず、一般的には天井内を通して配管することになります。

台湾の給水システムの特徴

先に、"台湾の給水メーターの配置は非合理極まりない"と書きましたが、これはあくまで設計する側、そして施工する側にとってそうであるわけで、台湾ではこれは合理的であると考えられているわけです。
それは、台湾の設備設計は、五大幹線の審査というものを通さなくてはならず、この給水システムについては、審査の管轄が台湾の水道会社になっています。そのために彼らの利便性を重視したこの様な計画になっています。
そうなっていると、台湾の水道会社は自らの都合の良いような計画しか承認しない、そのような経過を過去の台湾の設備設計は経てきていて、それがために台湾の給水システムではこれが常識になっている。その様に考えています。
しかし、これは外国人の目からの目で見ると、とてもおかしな計画に見えます。

コンクリートの受水槽については、日本では現場での手間を減らす、できるだけ工場化を図るというのが建設業界の共通認識な訳ですが、台湾ではそのような圧力がまだ強くないということなのだと考えています。工業製品を使うことによる、現場の手間の削減、工事品質の均一化といった方向には、今後台湾の建設現場も進んでいくと思われます。

また、受水槽の容量が異なること、水道管からの直接給水がないことは、台湾の給水システムの信頼性が低いということなのだろうと考えています。事故や不具合により、水が来ないことがある。そのために受水槽には3日間分の水を溜めておく必要があるし、直接給水は危険ということなのでしょう。
一方、日本の公共水道は信頼性が高いので、直接給水が可能であり、貯水する水の容量は1日分で十分。そして、水を早期に循環させることを重視しています。

この様に、給水設備の面でも台湾と日本の計画には大きな違いがあります。それは、台湾の諸々の条件の中で一般化されているわけで、間違いとは言い切れません。
基本的には、台湾の建築申請業務でOKが出る様な設備計画でなくてはならないし、台湾の建設事情の中で最善の方法を考えるしかありません。


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