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【台湾の面白い建物】基隆塔とその周辺施設

基隆塔は新しく基隆にできた、観光用のエレベーター兼タワーです。港周りの商店街から高さのある中正公園まで、高低差のある土地にエレベーターを計画するにあたり、設計者の邱文傑建築師は、港によく見られるガントリークレーンをモチーフにしました。このデザイン案は4年前に見ていたので、完成するのがとても待ち遠しく、オープン前にも2回見に行っています。

基隆塔

トラスと組み柱を主体とした構造をオレンジに塗装し、クレーンの様に先端が突き出ている外観は、基隆の街中でとても異彩を放っています。しかし、少し先にはガントリークレーンの大群があるので、不思議とこの街にはしっくり来ているように思います。
トラスの中は、コンペ時にはカフェとして街の様子を見れるコーナーをたくさん設けるという風に説明がありましたが、竣工したものは書店になっていました。この開口部には椅子が設けられて、お客さんが三々五々座ってこの特別なスペースでの読書を楽しんでいました。

タワーの上面は、基隆の街を見晴らす絶好の眺望スポットになっています。タワーの設計では一般的な"点"ではなく、ブリッジなので横に長い"線"になっていて公園に繋がっているので、使い勝手もよく景観の変化もあります。

崆書屋

タワーのブリッジの中正公園側の付け根の部分に、まるでトーチカの一部かと思われる、コンクリート打ち放しの構造物がありました。上部が展望台になっているので、その下が機械室かもしれないと思って、ぐるりと歩いてみたところ、何かの入口の様になっています。
店の名前は"崆書屋"。文字面からすると本屋さんですが、本屋はすでにタワーの中にあります。なんか様子がおかしいと思い中に入ってみました。エントランスのアプローチは台湾の建物には珍しく、とても長くカーブを描いていて、動線計画としてはとても面白くできていました。

そして、その長いトンネルを抜けると、そこはやはりコンクリート打ち放しですが、光に満ち溢れた空間になっていました。店名の通りに本も置いてありましたが、このスペースは基本的にはレストラン/カフェになっていました。

このレストランの内装は、全面的にコンクリート打ち放し。天井もそうなので、空調の室内機も剥き出しになったまま置かれています。照明器具は、放射状に設けられたライティングレールに設けられています。ここまでコンクリート打ち放しにこだわった内装を台湾で見たのは初めてです。

そして、ここで食べた料理もとても美味しかったです。メニューには"鴨胸拌麵"とありましたが、友人はこれは宜蘭の"鴨賞"と同じものだと教えてくれました。地元の名産スモークした鴨肉を使った、有名な料理なのだそうです。

信二路防空洞

いったんこの基隆塔を降り、丘の麓を歩いていたら、山の中をくり抜いた様なエントランスを発見しました。それは、日本統治時代の防空壕を観光拠点として整備し直したものでした。中を一通り歩いてみたところ、この防空壕の奥からエレベーターで上部の中正公園に出るようにも計画されていました。

これは基隆塔と一体的に整備された観光拠点だったんですね。港の周りの商店街と中正公園は、この様な2つの垂直動線を用いて結び付けられることになっています。一つは港に開かれたタワーブリッジ、一つは防空壕から山の中をくり抜いたエレベーターです。基隆市はなかなか面白い構想を実現している。その様に感じました。

基隆塔

通り側の基隆塔の入口。
オレンジがトレードカラーになっています
コーナーを曲がるとタワーの全容が見えます。
スロープによるアプローチ。
足元から基隆塔を見上げる。
タワー部を真下から見上げる。
上部からエントランス方向を見る。スロープは4折になっています。
タワーの先端部を見上げる。
先端の45度の曲がりがポイントになっています。
足元に立つととても目立つタワーですが、少し離れると建物に蹴られて見えなくなります。
基壇とエレベーターシャフトのデザイン。
エレベーターの入口。
設備系の諸々は、このオレンジのパネルにレイアウトされています。
ブリッジに上り、中正公園方向を見る。
ブリッジの先端部。45度に折れ曲がっている意図はよく分かりませんでした。
先端部からブリッジを見返す。
ブリッジのトラス内の書店。たくさんのアルコーブが設けられ基隆の街を見下ろせます。
別のアルコーブ。
別のアルコーブ。

崆書店

崆書屋の入り口。上は展望台です。
入口部分を見返す。
お店への入口部分。
コンクリート打ち放しのアルコーブ。
お店の内部。
剥き出しの空調室内機とライトレール。
窓の外が緑にあふれているので、居心地はとても良いです。
このような開口になっているので、構造的には手前の柱で支えているのでしょう。
レストランの全景。客席はこれだけの小さなものです。
サービスカウンター。右奥が厨房になっています。
ここで食べた絶品の”鴨胸拌麵”。台湾の友人はこの鴨肉は”鴨賞”だと言っていました。
宜蘭名産の鴨肉の燻製だそうです。とても良い香りがします。

信二路防空洞

入り口を入ったところ。防空壕跡に、床の工事と若干の装飾・照明を加えています。
防空壕の様子。
防空壕内のアルコーブ。
中正公園側のエレベーターの入口。
入口を見返す。
錆びた鉄板による付加された内装デザイン。
これらの防空壕は、日本軍が戦争に備えて作ったものと説明があります。
基隆は日本統治時代、海軍の拠点だったのですね。
現在も中華民国の海軍基地は存在しています。

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