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【イトログ_010】 作り手と使い手と

※この記事は2016.09.24に書かれたものです


2016年9月18日のこと。

エルサルバドルからフェルナンドさん夫婦が長崎にやってきた。

僕が中米のコーヒー農園訪問を始めた2011年から毎年通い、そして毎年コーヒー豆を購入させてもらっているエル・ミラドール農園の農園主。

エルサルバドル滞在中には必ず自宅へ招待してくれ、たくさんの食事とともに奥様とおもてなしをしてくれる。

そんな彼が、この長崎の、それも街外れにあるカリオモンズコーヒーを訪ねてくれた。


『コーヒー農家をお店に招待する』というのは産地訪問を始めた時からのひとつの目標で、その目標が先日ついに実現されたのだ。

たった1日、それもわずかに数時間の訪問だったが、僕にとってはとても大きな出来ごとだった。


実は数年前にも別の農家さんを招待できるチャンスが訪れたことがあった。結局そのときは《渡航許可》がおりずに実現できなかった。

一緒に買い付けをしている仲間が、様々な機関にかけあい手段を模索してくれたのだが、渡航目的や財政状況などから実現ができなかったのだ。

僕らが産地に行く以上にコーヒー農家さんが日本へ来るということが困難であることを、そのとき実感した。


その経験があっただけに、今回のフェルナンドさんの来店は、言わば産地訪問を行ったこの6年間のひとつの集大成であり、お店の歴史としても記録的な1日になった。


心配していた台風も幸運にもほとんど影響なく、予定より少し遅れて長崎に着いたフェルナンドさん夫婦を連れて、雨に濡れた長崎らしい中島川沿いを散策することもできた。


お店に案内すると、手作りのウェルカムボードやクラッカーとともにスタッフが出迎え、在店中もたくさんのエル・ミラドールファンのお客様が来店してくれた。

お客様にとっても普段自分が飲んでいるコーヒー豆の作り手に会うという経験はそうそう味わうことのできない体験だったと思う。通訳を通じてたくさんの質問がフェルナンドさん夫婦に向けられ、そのひとつひとつにフェルナンドさんたちは丁寧に答えてくれた。


時差の影響も抜けない時期だったこともあり、彼らには早めにホテルへの帰路についていただいた。

長旅で疲れているだろうに、電車が出発するその瞬間まで明るく振舞ってくれ、最後まで「長崎へ呼んでくれてありがとう」と繰り返し言ってくれた。

いつもはエルサルバドルで迎えられる立場だったので、こうやって長崎で彼らを迎えられたことが少しでも恩返しになっただろうか。


コーヒーには物語がある。


カップに注がれた一杯のコーヒーからだけでは窺い知れることのないその物語を、作り手から直接聞き、そして作り手も自分たちの仕事の先にいる使い手たちの声を聞くことができる。

たった数時間のこの空間が、僕がやりたかったことだ。

作る人がいて、買う人がいる。そういった当たり前のことが僕はやりたかった。


流通の関係上なかなか理想通りにはいかないこともあるし、僕自身の不器用さで下手やることもあるが、この気持ちだけはこの先も失わず、常に美味しさとその先の豊かさを目指したいと、改めて決意できた素晴らしい1日となった。

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