冬の思い出

子猫を抱いた彼女が
どうしたらいいか分からない風の顔で僕に言ったんだ
「ホラ、ねぇ可愛いよ! ヒロユも来て触ってご覧よ」
彼女の「大発見だよ!」といった感じの表情に苦笑しつつ

君には話していなかったっけ
僕が猫アレルギーだってコトを
君は心底、残念そうな顔をしてたね
「こんな可愛いものが触れないなんて、ヒロユは人生の何割かを損してるよ。ウン!」
などと、無意味に「うんうん」と頷いて見せる、君

僕はその時、言いたかったけど言えなかったんだ
『でも、君には触れる事が出来るし、だから僕は幸せだよ』って
そんな事を口に出してしまったら
ウソになってしまう気がして――

猫の手を取りはしゃぐ君と、それに迷惑そうに付き合う子猫
そのやり取りが、妙に僕のツボを刺激したらしく
「あはは」なんて声を上げて笑ってしまったんだ
君は、怪訝そうな顔で僕を見つめていたね

「さ、帰ろうか。いやぁ、やっぱ猫は可愛いわぁっ!」なんて
喜んでいる君の方が可愛く思うよ、とは言えずに
僕は言ったんだ
『あ! 家に帰ったら、最初に手を洗ってくれよな』

ふて腐れた顔で「はぁい」なんて手を上げて答える君と
この夕暮れの公園で過ごした時が
きっと、ずっと僕の宝物になるんだろうな

その瞬間、そう思ったんだ

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