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コロナで仕事0になった僕がリモートで仲間を集め、会わない劇団を創った話。

はじめまして、『劇団ノーミーツ』を主宰している広屋佑規と言います。初noteで緊張してます…!

まず自己紹介させてください。劇団ノーミーツは「NO密で濃密なひとときを」をテーマに、稽古から上演まで一度も会わずに活動するフルリモート劇団です。緊急事態宣言直後の2020年4月9日に旗揚げし、SNSでZoom演劇作品を発表したり、長編オンライン演劇を上演したりと、オンラインにおける演劇の可能性を追求しています。

ありがたいことに、ぼくらの活動はSNSを中心に多くの反響をもらい、エンタメの新しい形として注目いただくことが増えました。仲間も増え、最初は3人ではじめた劇団も、今では20人を超えるメンバーが加わってくれています。『ZA(ザ)』というオンライン演劇専用の劇場までつくりました。

劇団ノーミーツの最近の動きを見て、順風満帆だよね!と言ってくれる方も増えました。

……いやいや、実際はそんなことないんです。

ぼくは、オンラインでのエンタメに命をかけているように思われるかもしれませんが、実はリアルな空間で味わうエンタメが大好な人間です。

それこそ、大学3年生の時にエンタメづくりの世界に足を踏み入れてから、去年まで8年間。日常をエンターテイメント溢れる非日常空間に変え「表現の寛容な社会」を創るため、様々なリアルイベントに挑戦してきました。

特に、商店街や商業施設をすべてミュージカル空間に彩ってしまう没入型ライブエンタエメカンパニー『Out Of Theater』や、漫画『東京喰種』の世界観が味わえるイマーシブシアター『喰種レストラン』は大きく話題になりました。その結果、昨年の後半くらいから様々な相談をいただけるようになり、「まさかココとコラボできるとは…!」というような超大型案件の実施も2020年に決まっていたんです。

でも、それも今年の3月まで。コロナで全ての案件は消えました……。

ぼくの好きだったエンタメは、リアルな場で演者と観客が「密」に接することで起こる感動が醍醐味です。「三密を避ける」となると、ぼくらにできることはほとんどありません。

アクセル全開で準備を進めてきた仕事が無くなったことに愕然としましたが、それ以上に目指していたエンターテインメントそのものが失われてしまったことが、何よりショックでした。憧れの舞台にようやく手が届くと思った2020年。舞台そのものがなくなってしまうなんて、笑っちゃうような笑えない話です。

そんなぼくが、今、「NO密で濃密なひとときを、no meetsで」といって、一度も会わずに演劇をつくる劇団を主宰しています。

人生どうなるかなんて誰もわからないと言いますが、まさにその通り。今年3月の自分が今の姿を見たら、どう思うのか(笑)。

振り返ってみると、ここに至るまでには「選択」の連続でした。そして、選択の結果が、幸運にも良い方向に転がってくれて、現在の場所に辿り着いていたのが実情です。

2020年も終わろうとしている現在。ぼくの選択を振り返ってみようと思います。


止まったら全てが終わる。ひたすら企画出し

思い起こすのは、今年の3月。

2月頭くらいから、様々なライブイベントが延期や中止になるのを見ながら、抱いていた恐れが現実のものになりました。準備していた全ての企画や案件が中止…。多くのエンタメ関係者の方が感じたことだと思いますが、必死で準備していたものが披露できなくなることほど、やりきれないことはありません。

……ですが、落ち込んでいる暇はありませんでした。
ぼくには「共に活動する仲間」がいたからです。

実は、これまで一緒に『Out of Theater』で活動してきたメンバーと共にを、会社の立ち上げを決めていました。

正直、ぼくらが活動してきたリアルな空間でのエンタメは、あまり儲かりません。場所の制約があるので体験できる人数は限られる反面、俳優さんやスタッフの人手がどうしても必要だし、リアルの体験価値をあげようと思えば思うほど準備も大変なので、そんなに利益は出ないんです。だけど、リアルでしか味わえない感動に惹かれた仲間たちの協力のおかげで、なんとか活動が成り立っているという状態でした。

ぼく自身も『Out Of Theater』の活動の他に、知り合いから紹介してもらったイベント企画制作の仕事を受けたりして、なんとか食いつないでいた状態です。一緒にやっている仲間も近しい感じで、会社で働きながら兼業で関わってくれているメンバーもいました。

「自分たちが創りたい“表現の寛容な社会”を創るには、リアルエンタメの活動に時間を100%注入して『Out of Theater』の魅力をしっかり世の中に伝えていこう」

それが、ぼくらの共通の想いでした。そして、2019年は少ないながらも利益が出て、持続可能な事業として成り立つ兆しがようやく見えた一年でした。『東京喰種』といった人気コンテンツとのコラボができたり、渋谷の109前ど真ん中でミュージカルを上演できたり、いろんなところから声をかけていただいて、手応えを感じとっていたんです。

STM渋谷音楽祭②

今こそアクセルを踏むタイミングだと思いました。

会社を立ち上げ、社会的に更に信用される団体になり、表現に寛容な社会に一歩でも近づけていきたい。また、会社を立ち上げることで、ぼくらの決意や結束も一層強くなって、より成長できる。そんな期待がありました。

そうして会社を立ち上げる直前、コロナが直撃です。
練り上げていた事業計画も何もあったものではありません・・・。

「残念だけど、いったん会社の話はなかったことにしよう。」

……とは、口が裂けても言えませんでした。

みんなが強い気持ちを持ってOut of Theaterに参加しようとしてくれていたし、ぼく自身、やっとの想いでの会社設立です。ここで終わらせるのは本当に悔しい。

とはいえ、現実は仕事ゼロ。止まったら全てが終わります。得意としているリアルイベントはできなくても、なんとか違う形で出来ることはないかと必死で頭を使いました。


どうにか俳優が活動できる場を生み出せないか…

また、ぼくらには仲間として欠かせない存在がいます。

それは、キャストである俳優やパフォーマー達です。

街中でのミュージカルにしても体験型イベントでも、世界観をつくり、目の前の観客を楽しませるのは俳優やパフォーマーです。ぼくらが企画するイベントは、キャスト抜きでは語れません。

そして、彼らと活動をするなかで、俳優という職業がいかに経済的に厳しいのかを知りました。充分な収入を得られずに、アルバイトを掛け持ちをしながら生活している人がほとんどです。素晴らしい技術や人を楽しませる心を持っているのに、俳優業だけでは食べていけない現実がぼくはもったいないと感じました。

そのため、Out of Theaterは、俳優の活躍の場を広げることもミッションに掲げていました。様々なリアル空間でエンタメを仕掛けることで、劇場以外でも俳優の才能を発揮する場を増やしたい。同時に、俳優としての収入先を増やすことに貢献したいと。

そんなぼくらに期待してくれる俳優さんも増えてきて、2020年の頭には、Out of Theaterに登録する俳優は300名を超えました。この俳優さんたちと一緒に、演劇界のあり方を少しずつ変えていきたい。本気でそう考えていました。

そんななか、コロナによって演劇界は大打撃を受けました。

劇場は休演。公演が再開できたとしても、感染対策の難しさなどから、今まで以上に経済的に厳しくなることは容易に想像がつきます。

どうにか俳優さんたちが活動できる場を生み出せないか……

それは、消滅寸前のOut of Theaterを継続させることにも繋がります。
そうして、3月、4月は新しい企画に色々と挑戦しました。

例えば、自宅にいながらオンラインでミュージカルを楽しむ『宅飲みミュージカル』。

他には、キャラクターやパフォーマーが美味しいごはんと笑顔を届ける『キャラデリバリー』。

ただ、どれも興行的には赤字で、生き延びるための活路を見出すことはできませんでした。

そんな袋小路のなかで出会ったのが、「Zoom演劇」という可能性です。


Zoom演劇で見出した活路

ぼくは、オンライン演劇をつくる劇団を主宰しているので、以前からオンラインを使いこなしている人間のように思われることが多いのですが、基本的にはアナログ人間です。Zoomも今年の春まで、ほとんど使ったことがありせんでした。

ただ、3月に外出自粛が始まったあたりから、Zoomを使ったリモート演劇を演劇界の方々が挑戦しているものを目をしました。これなら出来そうだし面白そうと直感的に感じたのと、活路を見出さないといけない状態だったので、ぼくもZoom演劇に挑戦してみたいと思ったのです。

その時に声をかけたのが、劇団ノーミーツを一緒に主宰している林健太郎小御門優一郎のふたりです。当時のぼくらはZoomの素人感丸出しで、「バーチャル背景ってすげー」とか普通に驚いてました(笑)。

ただ、今から振り返るとぼくらのスピードは早かったかもしれません。最初に話し合ったのが4月5日。7日に緊急事態宣言が発令され、9日には『劇団ノーミーツ』を旗揚げし作品を発表しました。

立ち上げから4日後。Twitterに投稿したのが、この『ZOOM飲み会してたら、怪奇現象起きた』です。

実は、初めて発表したこの作品から反響がありました。当時はZoomの利用者も増えはじめた時期で、Zoom飲みなどが定着していた頃だったからか、この作品に良い意味で驚いてくれた方が多く、面白がってもらうことができました。

もしかしたら、自宅にいながら表現をすることは出来るのかもしれない。手応えを感じたぼくらは、毎日Zoomでミーティングを繰り返し、3日に1本のペースで短編のZoom演劇を発表し続けました。時間だけはありました。共に活動する仲間を徐々に増やしながら、これは大人の部活動だよねなんて言い合いながら、今出来る表現を探して楽しみながら作品づくりをしていたと思います。

その中でも、Twitterでの再生回数が1000万回を超え、劇団ノーミーツを多くの人に知ってもらうキッカケとなったのが、この『ダルい上司の打ち合わせ回避する方法考えた』です。

この作品の反響には僕らも驚くばかりでした。「この状況下にこういった笑える作品を作ってくれてありがとう。元気がでた」「自宅にいながらでも出来ることがあるんだと気付かされたよ。自分も出来ること探そうと思う」といった温かい言葉をいただくことができて、自分たちがやってきたことは間違いではなかったんだと、逆に励まされたことを良く覚えています。

……ただここで一つ問題がありました。Twitter上でいくら話題になっても、お金を生み出すことはできません。

このままだと劇団ノーミーツの活動を続けることが難しくなる可能性もある。と同時に、短編のZoom演劇だけでなく、更にZoomを使った演劇の可能性を信じて、長編の演劇作品を生配信で届けるという新たな挑戦に打って出たいという気持ちが膨らんでいました。

そう考えた末に上演したのが、ぼくらにとって初めての長編公演となる『門外不出モラトリアム』です。


有料公演という”大きな賭け”で得たもの

実は、この長編公演を有料にするか、無料にするかは、議論が大きく別れました。

お金をいただく以上は、お客さんの期待を上回る作品にしないといけないし、何より失敗が許されない。技術面での不安もあるし、脚本にしてもZoom上での物語をどう構成したらよいか分かりません。Zoom演劇で2時間の長編なんて誰もやったことがないので、ひとつずつ正解を手繰り寄せる必要がありました。だから、最初の公演は実験的な意味合いを込めて、無料にしたほうがいいのではという議論もありました。

でも、最終的には、コロナの状況下で「オンラインでのエンタメでも有料での興行が成立する」ことを証明したい気持ちが勝りました。有料公演をすることは大きな賭けでしたが、絶対に避けられない壁でもあります。

この公演の結果次第では、オンライン×エンターテインメントの新しい可能性を一つ示すことができるかもしれない。更にな仲間にも声をかけ、bosyuでも呼びかけながら、当時は劇団員13名。役者もリモートオーディションで募り、スタッフと一丸となって制作を進めました。

チケットの販売価格は2,500円。動員数1000人を目標にしていましたが、結果的には5,000人を超える人が自宅から観劇してくださり、多くの方から嬉しい感想をいただきました。

この門外不出モラトリアムの成功を経て、多くの方がオンライン演劇の表現面と興行面、どちらにも可能性を感じてくれました。僕らも当事者として、多くの方に届く物語を創れたことは本当に嬉しくて、更にオンライン演劇の可能性を追求してみたくなりました。

でも実は、ぼくが一番嬉しかったのは、公演終了後に役者さんやスタッフのみんなにきちんと支払いをできた瞬間です。

もちろん大きな額を支払いできたとは思っていません。ですが、今までのリアルエンタメの時と比べると、ちゃんとした支払いをすることができた。これまで充分な額を払えていないことに対して、やりがい搾取をしているのではないかと後ろめたい気持ちもたくさんありました。だから、支払いができたという事実に、企画者として大きな喜びを感じました。

ぼくらのようなオンライン公演の場合、会場や稽古場などの費用は現状かかりません。また、オンラインだと観劇できる人数に上限がないので、内容自体が面白ければ、観たいと思ってくれた方全員に、観てもらうことができます。

価値ある作品を作れば、オンラインは利益が出やすい構造が作れるのです。

儲からないリアルエンタメの世界。
生活が苦しい俳優業。

ぼくは、自分が抱えていた問題を解決する糸口を得たと思いました。

オンラインでのエンタメを確立することができれば、コロナが落ち着き、リアルエンタメが復活した際に、組み合わせることで収支を支えてくれるかもしれない。それだけでなく、リアルとオンラインの融合で新しいエンタメのジャンルを開拓できるかもしれない。

僕はこの旗揚げ公演を経て、全ての活動をオンラインエンタメの可能性を追求することに決めました。

それぞれの”選択”を、労い合う物語を届ける!

とはいえ、オンラインに賭けるという選択をしてから、まだ半年と少し。手応えは感じているものの、この選択が正しかったかどうかは、まだわかりません。

去年の今頃は、リアルエンタメで表現に寛容な社会を創ると豪語していた自分がいます。そう考えると、来年の今頃はどんなことを言っているのか。明日、どうなっているかなんて、誰にもわからない…と改めて感じます。

ただ、全ての仕事が吹き飛び、頭が真っ白になりそうな中で、不安を抱えながらも、数々の選択を決めたことには価値があると感じています。

選択の連続が、行き止まりだと思っていた道の先を切り開いてくれました。

きっと、大きな変化に見舞われた2020年は、多くの人にとって選択を迫られた一年だったと思います。

選択がいい方向に向かっていると感じられている人もいれば、この選択は果たして大丈夫だったのか…と不安を感じている人もいるかもしれません。また、選択ができなかった人もいるはずです。耐え忍ぶ、諦める、あえて何もしない。でも、これも自分で選んだのであれば、尊い選択だと思います。

その選択が正しいかどうか。誰も正解は分からないまま、一歩進まなければいけなかった。

そんな特別な2020年の年末に、届けたい物語があります。劇団ノーミーツは年末である12月26日から、第3回となる長編公演を上演します。

タイトルは『それでも笑えれば』

この演劇は、観客のみなさんが主人公の行動を選ぶ「選択式演劇」に挑戦します。そして、作品の物語のテーマも「選択」です。

物語の結末を見届けてもらい、ご自身の2020年の選択について振り返ってもらえたら、そんなに嬉しいことはありません。今年のそれぞれの”選択”を、労い合うような作品にしていけたらと思います。是非、ご期待ください!


また、劇団ノーミーツ主催で「#2020年わたしの選択」noteコンテストも開催しています。2020年のわたしの選択について、振り返ったものをぜひnoteに投稿してみてください。劇団ノーミーツと、コピーライターの阿部広太郎さんと、小説家のカツセマサヒコさんで審査させていただき、グランプリ作品には私達劇団ノーミーツが短編演劇として制作いたします。

今年の選択を前向きに振り返りながら、2021年に繋げていきたい。このnoteと企画が、それでも笑えればと前向きな気持ちになるきっかけとなれば幸いです。ご興味あれば、こちらもぜひ。

<編集協力:井手桂司
<KV制作:目黒水海神岡真拓


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