見出し画像

AIで音楽が作れる時代にサウンドデザイナーが音楽を作る意味

ここ数年、Rakuten Fashion Week TOKYOでショーの音楽を担当させていただく機会が増えました。
今年はTENDER PERSONとNAPE_という2つのブランドのショーの音楽制作、プロデュースを担当しました。

AIでも音楽が作れる時代

様々なメディアで取り上げられているように、テキストから音楽を生成できるMubertのようなサービスが昨年から今年にかけて注目されています。
今のところはクオリティ的に見てもまだまだ人間よりも劣っている部分があると思いつつ、手軽にオリジナルの音楽を作れるようになっていることは確かで、今年中には現在よりも複雑な構造の音楽が生成できるようになるのではないかと思っています。

ChatGPTとライターさんの関係性にも似ているかもしれないけれど、音楽家の中でも自分の仕事がAIに奪われるのではという不安を感じている人がいるかもしれない。(まだそういった人に合ったことない。)

人間のサウンドデザイナー vs 音楽生成AI

今回のファッションウィークの音楽制作の仕事を依頼されたときに、仮に自分自身と技術的に全く同じ能力の音楽生成AIが存在しているとした場合、AIと自分がそれぞれ曲を作ったらどうなるのか考えてみました。

自分の場合、ファッションブランドの音楽音楽制作の依頼をされた時は、デザイナーさんから服を作る時にインスピレーションを受けたもの(音楽やアート、映画など)を教えてもらいます。
加えて、今シーズンのステートメントの文章やいただける情報は全部教えてもらって、自分の頭の中で服のデザインに合わせて、音楽を模索する過程で、自分の想像力を引き出して楽曲を作っていきます。

「ファッションデザイナーが服をデザインする時に、聴いていた音楽やテーマに着想を得て、そのコンセプトに合う音楽を制作する」という工程をAIが人間に代替できるのか?

自分の予想では多分できると思います。
理由は今回の制作時に、自分がデザイナーから与えてもらった情報は、AIサービスにプロンプトを入力することと構造としては大きく変わらないと思ったからです。

人間でもAIでも作った音楽が依頼者の好みにマッチするかは、フィーリングが合うか合わないかだけの話だと思います。

人間だけができること

音楽家として自分以外の人のために、音楽を制作する経験は、いつも楽しいと同時に驚きと刺激をいただけます。
そして自分は音楽を納品するという意識より、作って提供した音楽が依頼者(今回の場合だとデザイナーさん)の新しい創作のインスピレーションになるように自分のできる限りの音楽を作っています。

そして、自分の場合は明確にデザイナーの頭の中に鳴っている音楽が存在していて、それが他のアーティストが発表している既存の楽曲だった場合は、お金を払ってその曲の使用許可を取得してでもショーの中で使うようにしています。
今回もTENDER PERSONというブランドのショーの中では約20分のショーの中で、自分で作った曲と既存の曲が混ざった構成にしています。
曲をMIXさせたりショーの構成も考えながらタイミングを作っていくのはAIには難しい領域だと思います。
これらの既存曲を使うというジャッジやデザイナーの感覚を読み取って音のスペースを調整することが、ファッションショーの音楽制作においては人間のサウンドデザイナーが必要な一番の理由なのではないかと思っています。

NAPE_というブランドのショーでは実際に音楽を生で演奏しました。
これもAIには真似できないことです。

結論、AIに任せられる部分は任せて、ディレクション的な方向に自分のクリエイティビティを全振りする音楽家(サウンドデザイナー)が出てきても良いと思います。
利用できるテクノロジーは利用すれば良いと思いますし、そういった人が増えると逆にAIを使わずに曲を作ったり生で演奏できる音楽家のレアリティが上がるので、双方が幸せになれば最高ですね。

今回作った音楽

音楽家として自分以外の人のために、音楽を制作する経験は、楽しいと同時に驚きと刺激をいただけます。
ファッションデザイナーの世界観を表現する音楽を作ることは、自分自身も広い世界を見ることができました。

↓にTENDER PERSONのショーの音楽(25min,YouTubeよりも高音質版)と、NAPE_のショーが始まる前に流していたアンビエント的な音楽(10min)をアップしているので聴いてみたいという奇特な方はどうぞ。
(NAPE_の音楽はショーの2日前に依頼されて前日に6曲作りました。)

ここから先は

0字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?