Nara Leao / Nara
ナラ・レオンのイメージは後年のボサノヴァ歌手という人は多いと思う。それ以前に「誰?」と思う人の方が多い気もするが、ここでそこから説明するつもりはない。
ボサノヴァを形作ったのはアントニオ・カルロス・ジョビンとジョアン・ジルベルトというのは有名な話ではあるが、ボサノヴァが育ったのはナラ・レオンのアパートだというのもボッサファンであれば承知の事実。1950年代後半、ギター教室を開いていたロベルト・メネスカルやカルロス・リラといった後に名を残す人たちやその仲間がナラのアパートに集まるようになった。
当時はサンバ・カンソーンやカルヴァナル音楽が流行していたが、若い彼らはそれらにウンザリしていて、新しいものを求めていた。そんなときにナラのアパートにメネスカルが連れてきたジョアン・ジルベルトがバチータという新しい演奏方法を披露し、ボサノヴァが若者に浸透していくようになったという。その中でまだ少女だったナラは「ボサノヴァのミューズ」よろしく、周りに可愛がられたという。
1964年、ナラはファッションショーでのライヴのためにセルジオ・メンデスと共に来日しているそうだが、その年にリリースされたのが今回紹介する1stアルバムである『Nara』である。
Marcha da Quarta Feira de Cinzas
Diz Que Vou por Aí
O Môrro (Feio, Não É Bonito)
Canção da Terra
O Sol Nascerá
Luz Negra
Berimbau
Vou por Aí
Maria Moita
Réquiem para um Amor
Consolação
Nanã
冒頭に散々ボサノヴァのことを書いてきたが、このナラ・レオンの1stアルバムはボッサ・アルバムではない。60年代のブラジルは軍事独裁政権下にあり、ナラは社会的関心を持つことで軍事政権に抗うようにしてきた。そんな状況下において、ボサノヴァの持つ「太陽、空、自然」みたいな世界観を馬鹿らしく思うようになり、「私はボサノヴァの女神なんかじゃない」と発言するようになった。
俺が持っているこのアルバムのCDは日本盤ではあるが、残念ながら対訳はおろか歌詞もついていないので、どんなことを歌っているのか分からないが、過去に読んだ雑誌や本の説明には大抵「反ボッサ・アルバム」と書かれている。同時代のミュージシャンの曲や、ブラジルの古典となる曲を歌っているのが特徴で、その後のナラのアルバムの多くはこのパターンである。
「ボサノヴァはブラジルの現実を歌っていない」と発言し、その後もプロテスト・ソング的な曲やアルバムを重ねてきたナラは、自由を求めてメッセージを発信してきたという。そして軍に目をつけられてしまい、1968年にはカエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルらとパリへ亡命。
ナラがボサノヴァをレコードに吹き込んだのは、パリ亡命中の1971年、実に11枚目となる『美しきボサノヴァのミューズ(原題:Dez Anos Depois)』が初めてだった。
俺はこの1stアルバムがとても好きで、決して上手くはない歌もだけど、楽曲にもどこか危なっかしいけど、独特の安定感がある。そして何よりも好きなのが7曲目「Berimbau」だ。少々大げさなオーケストラが施してあって、例えばセルジオ・メンデス&ブラジル66 のファーストに入っているような歌詞に曲タイトルが歌われているのを先に聴いてしまったがばかりに、このアルバムのそれはタイトルが歌われていないところに意外性があって良い。そしてラストの「Nanã」もホントは歌詞があるのに、ここではナラはほぼハミングってところも良い。ほんの一例だけど。
たぶん、そういう聴き方じゃねえよとコアなファンに怒られるかもしれないが、ブラジル音楽の奥深さがあるような感じがするところがこのアルバムの魅力だ。削ぎ落しているのか、いろいろここから発展できるのか、俺はいまだにその答えは見つけられていない。
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