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大晦日興行への想い入れ

大晦日と言えば、格闘技。

大晦日=格闘技興行、という図式は私の中で、かれこれ十数年続いている。この十数年の中で、日本格闘技の浮き沈みを目の当たりにして、何度も離れて、また近づいて、、、のような関係でいた。それでも、大晦日は特別な意味を持つ日だ。

2020年12月。世界は未曾有のコロナウイルス禍に覆われ、日本国内でも、スポーツ及びエンターテインメント産業はその存在意義を見つめなおされた一年でもあったと思う。(故に、それを支えるファンの想いも昂る一年だった)

その中での、大晦日興行。RIZIN.26(RIZIN)は、かつて格闘技興行PRIDEを手掛けていたDSEスタッフが中心となり、大晦日興行の系譜を引き継ぐ記念すべき20周年イベントとして、観客数を制限した上で開催された。

結論から言うと、今回の興行は素直に面白かった。


以下、印象的な試合をいくつかピックアップ。

(恐れ入りますが、選手名に関しては敬称略で書かせていただきます)


【堀口 恭司 vs 朝倉 海】

この試合では、堀口恭司という格闘家の勝負強さ、そして、ATT首脳陣との絆、戦略の巧さを感じた。試合がこのような形(カーフキックで主導権を握った堀口恭司が、一気にKO勝利を捥ぎ取った)で展開され、終わるとは思っていなかった。勝負事というのは、相手が予想だにしないカードを出したら、一気に畳み掛けるのだという、教訓のようなものを教えられた気がした。

今回の試合で、一つキーワードになるかもしれない、と思っていたのは、この試合で日本軽量級のアイコンが、堀口恭司から朝倉海に移行するのではないか、というものだった。

ー結果、堀口恭司は時代を譲らなかった。この意味は大きい。

2021年は始まったばかり。ここから2人がどのような道を進むのか、そしてどのような展開が生まれるのかに期待したい。


【朝倉 未来 vs 弥益 "ドミネーター" 聡志】

この試合は素晴らしかった。朝倉未来の強さと殺気を感じた。

2020年、日本格闘技界は間違いなく朝倉兄弟を中心に動いていた。コロナウイルス禍が彼らの幻想に拍車をかけた。朝倉未来本人は、北米のBellatorデビューを2021年の目標に掲げるだろうが、個人的な想いを言うと、2021年も海外への渡航規制が緩和されないようであれば、一つ階級を上げて-70kgのライト級に挑戦して欲しい。

というのは、球技系のコンタクトスポーツ(ラグビーやアメフト)のアスリートが見ても、より迫力のある試合を提供して欲しい、、老婆心ながらと思ってしまうからだ(この意見は、MMAの競技性を考える上で全く的外れなものであることを私は理解してます)。RIZIN側は今年、‐65~8㎏(?)のフェザー級GPを念頭に置いているようだが、朝倉未来の一挙手一投足がより楽しみである。


【シバター vs HIROYA】

人気YouTuber兼プロレスラーのシバター(アマチュアでの格闘技経験あり)を起用し、軽量級キックボクサーのHIROYAと、体格差のある条件かつMIXルールのTV向けエンターテイメントマッチとして組まれた。

この試合で感じたのは、身長10㎝以上、体重15㎏以上、対格差のある相手に対して、精度の高い打撃を加えるというのは、かなり至難の業であるという事だった。このように一見、馬鹿げた無差別級マッチは世界的に見てもRIZIN以外は組まないかもしれない。しかしながら、私はこの結果をとても興味深く受け止めた。


【所 英男 vs 太田 忍】

(グレコローマンレスリング)リオ五輪銀メダリスト、太田忍のMMAデビュー戦と位置づけられた試合。相手は所英男。

この試合は、互いの実力云々以上に、RIZINサイドのマッチメイクミスのように感じた。リオ五輪銀メダリストのデビュー戦とはいえ、ベテラン選手 vs 新人選手の試合。かつ、レスリング的な展開に付き合わなくても、寝技や打撃で主導権が握れる所英男は、太田忍にとって、相性的にも少々分の悪い相手だったように思う。このような試合は、エンターテイメント路線全開の海外プロモーションでも組まない。


【平本 蓮 vs 萩原 京平】

此方も、K-1(キックボクシング興行)で華々しい戦績を引っ提げて、MMA界に殴り込みをかけた平本蓮のデビュー戦、と位置づけられた。

総合格闘技の現実を突き付けられた試合だった。この試合も、所・太田戦と同じような印象で、冷静に考えればこのような展開で決着はつくだろうな、、と実際に試合を見た後ながら感じた。平本、太田の両選手にとっては、苦い結末だったと思う。彼らの人生に対して、全く責任を持たない一人のファンとしては、ここで踏ん張って欲しい。人は、笑われて強くなる。


今回の大晦日興行を通して、様々な矛盾を抱えながらも、RIZINは確実に地盤を固めていると感じた。榊原信行CEOは、3月に東京ドームイベント(?)というものを考えているらしいが、そこには疑問符を持ってしまう。というよりも、まだかつての栄光を追い掛けたい、いや、追い掛けざる得ないのだな、という時代の寵児としての儚さを感じた。

しかしながら、一つ明るい兆しとして、このコロナウイルス禍は、結果として、RIZINを外資依存型から内需育成型に変え、ポジティブな方向性に動かすのではないか、と思った。実際、契約時の手続き、試合時の渡航費や宿泊費、体重超過問題など、様々なリスクを抱える外国人選手を多く起用するのではなく、国内の中堅団体や選手達と連携できる興行を組めた、というのはかなり大きな収穫だったのではないだろうか。

実を言うと私自身は、日本の格闘技シーンに対して、あまり前向きな気持ちを持てない日々が続いていた。YouTubeやSNSでの過剰な自己プロデュースに乗り切れないからだ。この想いは、今でも変わらない。しかし、今回の大晦日興行のSNSでの盛り上がりは、近年稀にみるものであったと思う。これは、その自己プロデュースのおかげ、、なのだろう。時代は、変わる。

何はともあれ、この未曾有のコロナウイルス禍で、私にとって、今必要なものは、自分自身の興味や考えに素直になる事だと感じた。そして、(SNSでの盛り上がりを通して)日本格闘技の強みは、情熱を惜しみなく注げるファンの存在なのだな、と思った。今年のRIZINはそれを教えてくれた。


2021年も胸いっぱいの格闘技を提供して欲しい。

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