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現実逃避的読書のススメ。その四 アヘン王国潜入記

今回は、高野秀行著 『アヘン王国潜入記』 
こちらを紹介していきます。

著者の高野秀行さんは、1966年東京生まれ。
早稲田大学探検部出身の高野さんは大学在学中からアフリカのコンゴへ怪獣ムベンベを探しに行くなど世界中の辺境を旅する作家、辺境作家として大活躍している彼が旅するのはビルマ(ミャンマー)のワ州。

タイ ラオス ビルマの三国が国境を接する場所で、別名ゴールデントライアングルもしくは"黄金の三角地帯"と言われ、いわゆる麻薬地帯として有名で、おもにアヘン、そしてアヘンを精製してつくる非合法モルヒネやヘロインの世界最大の生産地であり、世界中のアヘン系麻薬の60%~70%!がここで生産されているといわれています。

当然、この場所は世界中のジャーナリストたちからも注目されてはいるのですが、彼らの書く記事は麻薬のルートがどうとか、そこを牛耳るボスがだれであるとか、CIAと極秘の結びつきがあるとか、国連とアメリカがどう動くとか、そういったことばかりであることに違和感を覚えた高野さんはこう言います。

多くのジャーナリズムは上空から見下ろした俯瞰図だと。客観的な情報である。
木を見て森を見ずという戒めに忠実にしたがっているのだろうが、悪くすれば森を見て木を見ずになっているのではないだろうか。

それは不特定多数の人に伝わりやすいが手で触ることができないと。
常に現場にこだわる高野さんの優れたフィールドワークとして、評価の高い一冊になってます。

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ケシ栽培は純粋な農業である。

まずこの本の表紙がすごいと思いませんか?ケシ畑のなかで銃を持つ爽やかな笑顔の青年たち。すごく好きな表紙なんですが、このアンバランスな写真がワ州の現状をよくあらわしていると思うんですよね。

ケシを栽培して麻薬をつくる、そこだけを聞いてしまうと、麻薬組織のような悪のイメージしか浮かびませんが、栽培しているのはふつうの女性たち。ワ州は平坦な土地がすくなく換金作物はもちろん、食料の自給すらままならないこの地では、ケシを育て換金するしかないのが現状。ぼくたちの一方的な善悪の判断では推し量れないものがあるんです。

どうにか潜入し、住民たちから『アイ・ラオ=物語る長男』という名前をもらった高野さんは、毎日ケシ畑の草を引き、酒を酌み交わし交流を深めていくなかで体調を崩してしまうのですが、病院もないような村では治療薬もあるわけなく、

彼の症状をみた村人は『こりゃ、アヘン吸うんだな』と言い出し、高野さんはアヘンを経験することになってしまったのです(笑)

実際アヘンは、古代ギリシア ローマ時代から万能の医薬品として重宝されて来た歴史があることからもわかります。

重くて怠かった身体がアヘンを吸うと、何もなかったかのように軽くなり、食欲はあるし元気いっぱいになった高野さんですが、翌日の夜には
『預けておいた荷物が丸ごと返送されて来たように、強烈な頭痛と胃腸の変調が私の身体に戻ってきた』といってます。禁断症状というかアヘンがごまかしていただけだったのでしょうか。

そして村人にまたアヘンを吸わせてくれと頼み始めた高野さんは立派なアヘン中毒者になっていく... 。図らずも彼はアヘンの栽培だけでなく、アヘンの使用方法から効能までもをリアルにレポートすることになってしまったのです。

彼の旅はいつもこう。このエピソードのほかにも高野さんの辺境レポートは思いもかけないことの連続で、しかもユーモアたっぷりに書いてあるので読んで飽きることがない。
よくこんな状況で無事に帰ってこれるなぁと感心することばかり。普通のひとならおそらく向こうで死んでる(笑)

笑って読めるリアルな麻薬の本なんてほかにあるのだろうか?おそらくこの本だけだと思うので、高野ファンのみならず一度は読んで欲しい一冊です。

















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