自由を叫べば叫ぶほど深く昏い穴に囚われて抜け出すこともできず泥まみれになって朽ちていくだけならば一体自由とは何なのだろう。心を見つめれば見つめるほど偽りで飾り立てた虚構の美しさが際立つのならばこの双眸をどこへ置けというのだろう。全ての言説はわたしをどこかへ放つと見せかけながらその実鞏固に縛り付ける建前だと気づいたところで記憶を消しでもしない限り逃れられはしないのだからなんと恐ろしい世界なのだろう。その不可逆的性質を鑑みるに知る行為というものは必ずしも善い行いとは限らない。だれだって心のままに在りたいと願うのにも関わらず願いが強ければ強いほどに底なし沼のようにあらゆる柵が手足を縛り口を塞ぎ脳を侵食する。これほど悲しい生物の性などあるものか。
声を嗄らす
声を嗄らすというのは文字通り嗄らすということであってもう私の中には何も残っていないのにそれでも何かを叫ぼうともがく営みこそが私の身体中に繋がれた見えない鎖の証である。栄華の夢から未だ覚めないでいるために意識は覚醒しているにも関わらず瞼を開けられないでいる。残してきた足跡は確かに私の靴の形をしているというのにそれだけでは飽き足らず今この瞬間に掴んでいるという確かな感触が得られなければ恐いのだ。足跡など風に曝され水に浸されれば簡単に消えてしまう。そうして今日も消え去った夢の残り香を追い求めて瞼を固く閉じたまま現実世界をやり過ごす。
午前二時の孤独
理想的な孤独とは星を鏤めた空の下でひとり風の音に不安を搔き立てながら長い夜を耐え忍ぶことでありそこに人工的な灯りが介入することなど決して許されてはならない。本のページを捲る音が部屋に浮遊し筆で書きつける音が地響きとなって心臓を揺るがすような経験でなければならない。見えない鎖を手繰り寄せればすぐ傍に他者が存在し得る偽りの孤独の中にあっては真の孤独だけがもたらす光明など得られるはずもなかろう。
勁草ここに在りと信ず
そうしていつまでも夢から覚めることを拒み続けてこの大地を未だ己の足で踏みしめることができない愚かな人間が今日もここに存在する。