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表情なき捕手

常に同じ表情しか見せないものたちにおまえの大切な気持ちを晒すな。表情をもつように見えてその実仮面のように冷え切った鉄の塊でしかない彼らのためにおまえの大切な感情を切り売りするな。痛みをこらえて切り取った肉の欠片は彼らに反射すれば単なる同質の有機物になり果てるだろう。おまえの有限の魂は物言わぬ表情なき捕手のために存在するのではない。いいかよく聞いておけ。お前が彼らに渡せるものなどただの一つもないのだ。

最終電車と反転世界

最終電車に揺られて漆黒の中に視線を彷徨わせる日々がかつて地続きで存在したなどと誰が信じられるだろうか。汚れなき生まれたばかりの光に照らされてすべて白日のもとに曝け出す未来が待っているなどと誰が信じただろうか。漆黒を駆け抜ける最終電車の行き着く先が光あふれる世界であるならば果たして幸せとは一体何だろうか。この車輪は世界を反転させるために昼も夜も回り続けるのならば命の幸せはどこにあるのだろうか。

戻れない網状世界

世界について語るのならば途切れ途切れの言葉の欠片をまた繋ぎ合わせないことには何も語れない。網状世界を夢見てオフホワイトのキャンバスに黒鉛が迸ったあの狭い部屋のことを語るには多くのものを背負い過ぎた。一枚一枚にすべてがありすべてはあの一枚の中に収まっていた。

もしも生まれ直すならば

目の前に敷かれた道から今更外れたいと思ってはいないけれどもしも別の道を望む生であったならばどうだっただろうと考えずにはいられない。別の道を望むことは現在の生では決して叶わないのだから生まれるところからやり直すしかありえない。仮定と仮定の狭間で心揺らすことそれ自体に意味はなくとも私は私の知らない世界を知り私ではない誰かになりたいとずっとずっと願い続けている。

終点

終点の網は届かないのではなくとうに通り過ぎてしまってもう二度と出合えはしない。

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