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星のみえない満月の夜、旅人は荒野を歩く

普段であれば頭上に広がる星々は満月のまばゆい光にかき消されて姿を隠してしまっている。
荒野を支配する月の光はどこか寒々しく、岩と枯草ばかりの表情のない大地をよりいっそう寂しげな色彩に染めあげる。

故郷に置いてきたものはどれも取るに足らないものばかりだったが、こんな夜はなぜだか妙に思い出ばかりが甦る。

大地を蹴る足音と砂をさらっていく微かな風の音以外、耳に入るものは何もない。
静寂の地を旅人は歩く。

遠くに黒々と浮かび上がる市壁から仄かに光が漏れ出している。
都市の夜は眠らない。
今歩いているこの荒野とあの市壁の向こう側が本当に地続きになっているなど到底信じられなかった。

自分の領分をわきまえているかのように岩陰でひっそりと寄り添って生えている枯草。
砂の下に世界を築く昆虫。
クジラはこんな夜にも水面と深海を行き来しながら、誰も見たことのない絶海に波紋を描いている。

ああ、この世界でひとりなのは、私だけだ。

世界中の人類を敵に回しても

あなたは変わったと言うけれどその言葉を素直に受け入れられるほどに変化した自覚がある場合はそうそうない。変わったと感じるのならばそれはものの見方が変わっただけだと受け止めるのが本来正しい。

けれど真っ向から否定できるほど過去と今の自分に隔たりがないかと問われたら否と答える。

変わったと誰かが感じるのならば、やはり変わったのだろう。

意地を張って強がって決して弱みを見せず、助けてもらうことはすなわち負けることだと心得て、差し伸べられる手を突き放して、好意を見ないふりして、誰も戦ってなんかいない世界の中でひとりで武器を振り回してきた。

全世界の人類は敵でなければならない。そうでなければ戦っている理由がなくなってしまう。敵のように感じるわけでも実際に敵であるわけでもなくただ私が敵だとみなしたいだけだ。

半径1キロメートルの世界で生きることを望む方が圧倒的に幸福である。世界をそのまま受け止めて共存していく方が幸せである。それを望めない人格であった時点で完敗だ。

だから、まだ私は変わるわけにはいかない。

星々を書き換えて

月は満ち欠けを繰り返すたびに空を塗り替えて星を書き換えて荒野を支配してきた。

これまでもこれからも。

荒野の旅人は歩き続ける。
今日の星空がどんな形であろうとも。
大地の下にどんな世界があろうとも。
市壁の向こう側で何が繰り広げようとも。
深海を垣間見ることができなくとも。

荒野をひとりで歩いている限り、この世界でひとりなのは、わたしだけだ。

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