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ヒット商品に関われること

昨日はSteve Jobsが2005年にスタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチについて触れました。今日は、彼のプレゼンテーションの中で、私の印象に残っているものを紹介します。それは、2007年に初めてiPhoneを世に出した時のものです。

"This is the day I've been looking forward to for two and a half years."で始まるこのプレゼンは1時間半近くにもわたる長いものですが、最初の10分くらいを大学の授業での教材として使ってきました。

このプレゼンの冒頭に近い部分に次のような一節があり、私には強く突き刺さるくだりなのですが、学生諸君には、あまりピンと来ないようです。

Every once in a while, a revolutionary product comes along that changes everything. … Well, first of all, one's very fortunate if you get to work on just one of these in your career.

この部分は、Steveが純粋に、アップルが一つどころかいくつもの世の中を帰るような商品(a revolutionary product that changes everything)を出せたことへの喜びや感謝を述べると共に、「どうだ、アップルってすごいだろう」という自慢のメッセージでもあると思います。

自分の経験と突き合わせてみると…

私は銀行勤務時代に商品開発部門にいたことがあります。その期間、主に中小企業向けの貸出商品(ローン)や決済のしくみ、あるいは銀行の営業担当用に使いやすいセールス用のしくみ、システムなどを企画する仕事でした。とても自由な雰囲気の中で、どんなことを考えてもいいということだったので、実に充実した日々を過ごさせたもらいました。

開発した商品の中には、「銀行内では」という条件付きでヒットした商品もありましたが、日本中に、あるいは世界中に「〜の開発者戸田博之」とした自分の名前の知られるような商品を開発することはありませんでした。後の残りの人生の中で、もしそういうことが実現したら愉快だなとは思っていますが…

私はたまたま商品開発部門にいたので、ヒット商品の開発者としての名前を得る場所にいたのかもしれません。しかし、そんな部門にいる世の中の何千、何万の人の中で、名を残せる人はほとんどいません。これは研究者の世界についても言えるのかもしれません。30年とは40年のキャリアを通じて、それが実現する可能性は本当に本当に奇跡に近いくらい小さいのです。

だからこそ、Steveの"one's very fortunate if you get to work on just one of these in your career"が心に刺さるのだと思います。特に"just one of these"(その僅か1つにでも)がグサッと…

考えてみれば、このくだりは、これからキャリアを始める人ではなく、もうそのキャリアを繰り返すことができない者のみが持つ感想かもしれません。学生さんにとっては、「空砲」に等しいこのことを授業で伝えることの意味を、もう一度問い直さなければならないかもしれません。でも、「彼らが30年後、40年後に気づいてくれるかもしれないな」と思いつつ、多分言い続けるのだろうと思います。


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