最大利益の最小帰結 個人と全体、利益と損失の読み替え 2022年9月

先日弟と自転車で狭山湖に行った。この貯水池の周辺は静かな林が広がり、小さな川も流れて、日帰りでゆっくりするのにちょうどいい。
初めて行ったのは25年ほど前か。狭山湖は飲料水用の貯水池なので、フェンスが張って中に入れないのだが、道を隔てた反対側の林にはフェンスが無く、どこからでも入れた。
何年かのちには、フェンスが張られたが、所々に鍵のかかってない扉があって、以前と同じように中に入れた。

その間いくつかの出来事を見た。何かの植物を掘り上げたのだろう幾つもの地面の穴、焚き火跡、小道に付いた自転車やバイクの轍の跡、そして斜面を無軌道に走り回るオフロードバイク。

これらの行為が管理者をしてフェンスを張らせたのだと思う。

そして10年ぶりの今回である。

以前は鍵のかかってなかった扉には施錠がされて入れなくなっていた。小川に足をつけながら、菓子パンでも食べてお喋りしようと思っていたのに、大誤算である。どこか開いているのではないかと、フェンス沿いに歩き始めたが、結局2時間かけて汗をかきながらフェンスを一周してしまった。小川どころではなかったのである。

想像するに、私の最後の訪問以降も、次に来る人のことを考えないセルフィッシュな人が訪問し続けたのだろう。自転車どころか、人の立ち入りさえできなくなったのである。

フェンスの周りを歩きながら、このような経緯をどう表現したらいいのだろう、と考えていた。母屋を借りたら庇の外まで追い出された、とか、元の木阿弥戦法、とか。今日ふと、最大利益の最小帰結、という言葉を思い付いたのでこれにしようと思う。

以前グループでホテルを利用した時、ある人がゴミを散らかしっぱなしでチェックアウトしようとしたとき、別の人が、掃除の人が大変だし、そういう行為が結果として宿泊費を上げることになる、と言ったのに対し、当人が、このホテルには二度と来ないから構わない、と言い返した。
その人はまだ若かったから気づかなかったのだろうが、その人が次に宿泊する別のホテルには、それ以前にその人と同じ考えの人が何人も宿泊していて、彼は既に宿泊費が上がったホテルに泊まることになるのである。

ホテルの備品を持って帰る人がいる。バスタオルを一枚くらい持って帰ってもいいだろう、と言うことなのだろう。それで宿泊代が上がることは無いだろうし、上がったとしてもここにはもう来ないから、と思っているかもしれない。しかしあなたがそう思ったのなら、多くの人もそう思っているのである。つまりその人が次に泊まるホテルは、同じことをした人が既に何人も泊まっていて、値上げ済みのホテルなのだ。
旅の恥は掻き捨て、という言葉があるが、結局はまわりまわって自分に降りかかることになる。

話が変わるが、労働者とは労働力以外に売るものがない人のことを言うが、「資本論」にこんなことが書いてあるそうだ。

労働者は自分が作った商品を買うしかない、ゆえに自分が作り出した価値より小さな物しか得られない。

これを読んで、いやいや私は或る物を生産しているが、自分の生産していない別の物を買っていますよ、と思うかもしれない。
それに対してマルクスはこう言う。
労働者全体から見れば、結局は自分の作ったものを買っているのと同じなのだ、と。

つまり自分一人の見える場所から周囲を見渡すのと、自分と同じことをする人たち全体から周囲を見渡すのとでは、見える景色が違いますよ、と言うことだ。

ある個人がセルフィッシュな利益最大化を目指しても、セルフィッシュな人たち全体から見れば、自分も割を食っている、と言うことになる。

私がもし、ここだけ、と思って、何かセルフィッシュなことをすれば、他の多くの人もその行為をする可能性が高まり、まわりまわってそのしわ寄せが自分に戻ってくる。
私がもし、みんなのことを思ってやめておこう、とセルフィッシュな行為を思いとどまれば、他の多くの人もそうする可能性が高まり、まわりまわってその恩恵が自分に戻ってくる。

自分がそう行動したら、他の人も同じように行動するだろう、という想像は、私が選挙に投票しに行けば、他の人も投票しに行く可能性が高まるだろう、と思うのと同じ想像である。私一人が投票に行っても何も変わらない、と言う、私一人から見える景色を、私が行くということは、多くの人も行く可能性が高いだろう、と全体からの景色に読み替えて投票に行くのと同じことである。

もう一つ付け加えると、ここで言う全体とは相変わらず部分のことである。すべての人がゴミを投げ散らかすわけではなく、すべての人がバスタオルを持って帰るわけではない。
一部の人たちのセルフィッシュな行為のツケを全体で負担しているのである。

以上、流れはこうである。
自分一人だけの利益追求→利益追求者の増大→コスト増大→全体の負担増大→自分のコスト増大

最大利益の最小帰結、という言葉にまだしっくりこないが、とりあえず、この呼び名で行こうと思う。


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