〔余白の創造性〕甘党と辛党

余白の創造性連載第十八回目の今回のテーマは

”甘党と辛党”

自分が甘党か辛党か聞かれたことや、考えたことが一度はあるかと思います。

この甘党と辛党ですが、何となく甘いもの好きと辛いもの好きを指す言葉だと認識している人が多いと思います。

しかし、言葉の語源を調べてみるとなかなかに余白のある言葉でした。


まず、辛党ですが、辞書によると

”酒の好きな人”

だそうです。

これはだいぶ驚きました。

すっかり辛いものが好きな人のことを指すものだと思っていました。

調べていくと、古くは”塩辛いものを好む人”を指す言葉で、

お酒の好きな人が、つまみなどに塩辛いものを好んで食べることから、

辛党=塩辛いもの、お酒の好きな人となったそうです。


また、お酒を好きな人のことを”左党”とも言うそうで、

これは江戸時代の職人さんが、

槌を持つ右手を”槌手”

ノミを持つ左手を”ノミ手”と呼んでいて、

ノミ手から”飲み手”を連想し、左手にちなんで“左党”と言うらしいです。


次に、甘党については辛党に比べてシンプルな説明でした。

”酒よりも、甘いものが好きな人”

これは僕らの知っている通りの意味でしたね。

でも僕は少し気になるところがあって、

”酒よりも”という部分です。

この部分から、甘党という言葉が辛党に対しての対義語として後から使われるようになった言葉だと推測できそうです。

実際にどうなのかは分かりませんが、このコラムは余白の創造性を探るものですから、ここから考えていきます。


前述したように、江戸時代の職人さんのノミ手から辛党のことを左党とも言う訳ですが、ここにこの二つの言葉の関係性が見えてくるように思います。


そこで、当時の、江戸時代の人々の暮らしについて調べてみたのですが、

まず驚いたのが、なんと江戸の町には居酒屋さんが残っている資料で分かるだけで約1800軒以上あったそうです。

そのことから江戸は飲んべいの町とも呼ばれていたみたいです。

これはお酒の好きな人がたくさんいたことでしょう。

僕は何となく赤羽や上野のアメ横みたいな風景が思い浮かびました。


また、甘いものについてですが、

やはり大福や桜餅、串団子にようかんなど時代劇などでも見たことあるように、僕らにとってもなじみ深い和菓子が主流だったようです。

当時の価格を調べてみると、

大福・桜餅・串団子が約66円、ようかんは約1115円だったようです。

これだけだと物価がどれくらいなのか分からないので、これも時代劇などでよく見る蕎麦・うどんの一杯の値段を調べてみると、大体264円だったそうです。

ようかんが高級なことはもちろんですが、大福なども現在よりやや高いですよね。

お酒の値段も調べてみると、もちろんお酒の質によって価格は変動しますが、居酒屋で安いお酒を頼むと熱燗一合で約52円でした。

一合は約180mlでおちょこで飲むと大体5杯~10杯くらいなので、わりと十分楽しめる量だと思います。

これだけ安いならば、仕事帰りに居酒屋さんでお酒を飲んで帰る人が多かったことも容易に想像できます。

価格から、甘いものよりもお酒の方が敷居も低く、

こうして人々がお酒を楽しみ、江戸は飲んべえの町と呼ばれていたのでしょう。

そうしてお酒を好きな人を指す辛党や左党という呼称が浸透していったのでしょう。

そしておそらく辛党の人の割合がかなり多かったのだと思います。

しかし、もちろんお酒が苦手な人だっていたはずですから、

お酒に対抗する趣向品として”甘いもの”を好む人を甘党と呼ぶようになったのではないでしょうか。


いつの時代も”こっち”と”あっち”という構図が出来上がってしまうのでしょう。

そうしていつしか、単にそのものを好きな人を指すだけではなく、

何となく派閥みたいなものを感じるようにもなっていますよね。


あと、江戸時代の甘党には少し見栄っ張りなところも感じます。

安いお酒よりも、少し高級な甘いもののほうが好きというのは何だか可愛らしいです。


そういうわけで、やはり辛党という言葉に対して後から甘党という言葉が出来たというのも一説として考えられることではないでしょうか。

真相は分かりませんが、余白というのはそういうものです。

実際にどうであるかよりも、その創造性を考えることが余白の面白さなのです。


余談ですが、僕は甘いものもお酒も好きです。

しかし、甘いものを食べながらお酒を飲みたいとはあまり思わないですね。

やはり甘党と辛党は相容れないのでしょうか。

皆さんは、甘党と辛党どちらですか?



今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

今回は普段とは少し違う角度のテーマにしてみました。

甘党と辛党という言葉の語源についてはすでにある程度はっきりと答えの出ているものです。

それは個人の感性によって変化するものではありませんが、

今回のようにわずかな余白からその創造性を考えるのも面白いかと。


来週のテーマは“においについて”

それではまた来週の金曜日に。


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