見出し画像

隣りの空き家にまつわる怪情報?

おとといから札幌なのだが、天気予報通り、今日未明からしんしんんと雪が降っている。ゴミ出しにマンションのエントランスのヒサシをわずか50センチ足らず——往復で1メートル程度——外れただけで、地肌が透けぎみな我が後頭部に一瞬で積もった雪の冷やっこさに眠気を吹き飛ばされた恰好だ。

それにしても、吹雪くとなぜかくもわくわくするのだろう。思わずベッドから飛び起きたくなるこの気持ちは、初めて札幌に住まいを構えた四半世紀前からずっと同じ。実際、北海道は冬に限る。

もっとも、基本、マンション住まいの気やすさも大きい。早朝から路上に出て雪かきに余念のない、近隣の、戸建住民のみなさん、みなさんのご苦労そっちのけで呑気なことをほざいていること、本当にごめんなさい。

こんな日は、暖房の効いた部屋に蟄居して、ときどき美しい雪景色に目をやりながら、日がなダラダラと過ごすに限る。そもそも交通至便の駅近を避けて、あえて交通不便の円山西町くんだりに無駄に住まいを維持し続けるのは、極論すれば、まさにこんな日のためなのだ。あと何年、札幌の住所を維持できるのか分からない以上——緑内障のこともあるし——この光景を網膜にしっかと焼きつけておこう。

ただ、自分のなかで「札幌撤収」の頃合いと決めている明確な指標がいくつかあるにはある。それは、例えば、「目の前の大好きな一軒家が取り壊しとなる」、そんな日の到来なんかがそれだ。

屋根に煙突をいただいたその家の存在には、この中古マンションを下見に来たときにはすでに気づいていて、時代がかったその佇まいに北の住まいの質実さと気品とを感じ、この借景も一緒に購入を即断したのであった。

住人の気配がないことには当初から気づいていたが、この季節ともなると、雪の重みで(「取り壊し」よりはむしろ)倒壊が気が気でないのだが、それはそれとして、バームクーヘン様に何重にも層をなした屋根の積雪の断面は眺めてもながめても飽きることがない。

団地の給水塔は、いまはめっきり見なくなった過去の遺物であるが、昭和の時代は、生まれ育った博多といい、都内・都下といい、その辺ににょきにょきと林立していたと記憶する。この「給水塔」の上部のでっぱり部分には怪人のアジトがあって、夜な夜な怪しげな信号を送っているのだ、と漫画に描いたのは漫画家の川崎ゆきおである。高校生の頃から耽読した異端の漫画誌「ガロ」に掲載されたその作品がほぼ半世紀を経たいまも妙に記憶に残る。いまでは作品名さえ忘れてしまったが、東京郊外の団地などで、奇跡的に残った「給水塔」にお目にかかれたようなときは、川崎さんの独特の作画タッチとともに、変装マスクをつけた「怪人」の顔がありありと脳裡に蘇る。

翻って、札幌・円山西町の、お隣りの空き家には、いまどきのヒートテックで完全防寒した「怪人」とてこの時期は半日とじっとしてはいられないだろう。壁の気密性ひとつからして現在の仕様とは較ぶべくもないし、暖房にも温水にも与れないことは、煙突の先端を完全に蓋している雪帽子が如実に物語っている。

いっそのことフル・リノベして小さな美術館にでもできないか、と夢想したりもするが、カネもヒトも情熱もなし。よしんばどこからともなく資金が降って湧いたとしても、不在地主に行き当たるところから始めるとなると、要する時間と労力が途方もなさ過ぎて……。畢竟、年々少しずつ朽ち果てていくのを目撃するに「特等席」に住んでいる選ばれし住人ということなろうか。

だが待てよ、少なくともこの5年や6年、破れ窓のひとつとて目撃したことはないし、おかしな輩や大型・小型の動物の侵入や占拠を認めたこともない(このあたりでは、人里に降りてきたクマの目撃が1年に1度や2度ではきかないのだ)。

考えられるケースは3つ。

①住まないまでも近くに(あるいは、通える範囲に)家のオーナーは厳然とおられて、毎週とはいかないまでも、1ヶ月と空けずに掃除や管理に来られている

②時代がかった在来工法の木造建築と見せかけて、その実、内側から鉄筋コンクリートなどで周到に補強が施されている

そして、

③本来のオーナーは疾うの昔に亡くなっておられ、そのことを目ざとく聞き知った怪人が(やっぱり)アジト化をしている

機会あれば、いまも兵庫県伊丹市で意欲的に創作活動を続けておられるという川崎ゆきお先生のご意見もうかがってみたいところであるが、僕個人としては、③の②の①と推理する。

すなわち、身寄りなく亡くなってしまったオーナーに代わってこの家を占拠した怪人が、日曜大工の特技を駆使して建物を内側からコンクリートで補強しつつアジト化してはいるが、冬はやっぱりしばれるので、Rのつく月(OctoberからApril)に限っては月に1、2度、通いで掃除だけしに来る、というもの。

ということで、「怪人」が元気な限り、僕も札幌の我が家をやすやすと手放したりはしないのだ。

さあ、明日は明日で吹雪そうな予感。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?