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玉川徹さんに勝ち逃げ感が出てきた?

長い間、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)の一ファンでやってきた。犬・猫の話題からスタートする、あのお約束だけはいまも、どうにもいただけないが、テレビのニュースショーやワイドショーには珍しく、一つひとつのトピックをそれ相応の長尺で深掘りしてくれるし、政府や経済界との距離感も悪くない、と感じることが多い。

そもそもは、しかし、長く玉川徹ファンできたことが、同番組に並々ならぬシンパシーを感じる要因だとも思う。もうだいぶ前のシリーズ企画となるが、都内や近郊の官僚用や国会議員用の官舎を不動産の専門家と一緒に実際に巡っては、その並外れた厚遇ぶり、既得権益化を小気味良いほどに炙り出したり、批判したりしてくれたものだ。どれだけ胸のすく思いをしたことだろう。

想像するに、そこにはたぶん、玉川さん自身がテレビ局内であまり注目を浴びることのない部署や役回りを強いられることも多かったことへのルサンチマン……とまでは言わないが、反骨精神のようなものがある程度投影されてきたのではないか。事実、在京キー局すべてがその栄華を誇った最後の時代に定年退職を迎えることができたという意味においては広い意味での勝ち組だが、最後は役員になることもなかった(なろうとしなかった?)ようだし、安倍元首相の国葬での菅前首相の弔辞に対する不用意コメントでミソもクソもつけた(僕自身は、この「ミソ」も「クソ」も含めて玉川さんらしいな、とますます好きになったのだが)。

玉川さんは会社員として「勝ち組」にはなり切れなかったが、少なくとも「勝ち逃げ」をキメることはできたのではないか。それが証拠に、テレビ局員を満期で退職した次の日から、「モーニングショー」のレギュラーコメンテータとして残留する、という、誰もが羨む離れ業をやってのけたのである。玉川さんが獲得した、その唯一無二の立場を、これからも十二分に活かし、今後ますます歯に衣着せぬ物言いに磨きをかけていただきたいものだ、と切に願う。

ただ、ここからがやっと本題だが、最近の玉川徹さんの「物言い」には、おや? と我が耳を疑うものも少なくない。その一例が、11月8日の同番組での玉川さんの発言である。

この日、番組は厚労省が目下改正(改悪?)を目論む、所得の高い高齢者に対する介護保険料の増額案について扱ったのだが、コメントを求められて玉川さんは、概略、

「そもそも保険と税金はなにが違うのか、という話。例えば、自動車保険なら掛金が高い人は高い補償を受けられるのに……」と切り出し、介護保険の制度設計が、保険料の多寡に応じて受けられるサービスの内容に差がついていないことを暗に非難した……いや、僕には「明らかに非難した」ように感じられた。

「なるほど……人間、勝ち逃げするとそんな風に物事を捉えるんだ」

と一瞬思った。つまり、かつて、どちらかというと異端の番組ディレクターとして、常に庶民目線で社会のさまざまな事象に疑問を抱き、「事象」の現場から市井の一市民として声を張り上げていた玉川さんが、極論すれば、

「こちとら今後、高い介護保険料を払わされるんなら、一段手厚い介護サービスでも受けられるってことでもないとやってられねーよ」

と勝ち逃げ市民の高みの見物的なコメントに閉じてはいなかったか。クルマの保険は……というか、クルマそのものも、持たないなら持たないで済むのだが、誰しも老いからは逃げられない。最期を「手のかかる老人」として終えるか、「手のかからない老人」として終えるかは、誰にも予想できないのだ。厚労省の改正案の是非は置くとしても、介護のシステムそのものは応分の負担、すなわち立場や収入に応じた保険料でともに支える、ということでしか継続維持できないのではないか、と思う。

そうでなくとも、何をもって介護サービスの松竹梅とするかはなか判断の難しい問題である。公的な資金で支える介護サービスは、サービスを必要とする人ならどこに住んでいても、いくつになっても同質のサービスを享受することができるという、ミニマムでユニバーサルな「最後の砦」であるべきで、「介護サービスに負担に応じた松竹梅を!」と唱えられても鼻白む思いを禁じ得ない(案の定、その後、玉川さんの問題提起は他のコメンテータからはほぼ無視された恰好で、いつの間にか他の論点にすり替えられてしまっていた)。

もはや「副業としてのテレビコメンテータ」ではない以上、玉川徹さんにはいま、改めてその立ち位置が問われているのではないか。もちろん、加齢とともにその立ち位置やスタイルが変わっていくことはむしろ自然なこと。しかし、僕はあの、青山の一等地に建つ高級官僚用宿舎前で、その家賃のあまりもの安さに憤懣やる方なし、とばかり口角泡を飛ばす、若き日の玉川さんの方がずっと笑えたし、激しく共感もできた。

玉川さんには玉川さん自身の既得権益も糺して欲しい、と心から願う。



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