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ドラフトガイダンスまとめ

そもそもドラフトガイダンスとは

ドラフトガイダンスとは、米国食品医薬品局(FDA)が発行するガイドラインで、規制の補足説明や具体的な指示を行うものです。
FDAのドラフトガイダンスには、次のようなものがあります。

1.吸入剤の製剤設計に関し考慮すべき事項について詳細が示されたドラフトガイダンス

2.リポソーム製剤の製剤設計に関し申請書に記載すべき事項について詳細が示されたドラフトガイダンス

3.共結晶について申請書に記載すべき事項について詳細が示されたガイダンス

4.ナノマテリアルを含む医薬品、バイオ医薬品の開発について詳細が示されたドラフトガイダンス

5.コンピューターソフトウェアの品質保証に関するドラフトガイダンス(Computer Software Assurance)

コンピューターソフトウェアの品質保証に関するドラフトガイダンスでは、コンピューターソフトウェアの使用目的の評価や、リスクベース分析の使用など、コンピュータソフトウェア保証のリスクフレームワークについて概説されています。

Rare Diseases: Common Issues in Drug Development

FDA から2019年に発出されたドラフトガイダンス
希少疾病の治療または予防を目的とする医薬品及び生物学的製剤を開発する治験依頼者がより効率的な医薬品開発プログラムを推進することの支援を目的としている。

そして以下の8点が重要であると述べている。

1.疾患の自然歴に関する十分な理解
2.疾患の病態生理及び薬剤の作用機序に関する十分な理解
3.臨床試験による治療の安全性を裏付けるための毒性に関する考察
4.評価項目の選択または開発
5.安全性及び有効性を確立するためのエビデンス
6.医薬品開発中における製造上の留意事項
7.患者、介護者及び支援者の開発プログラムへの参加
8.規制当局との対話

ガイダンスの序文には医薬品の製造販売承認のための要件は希少疾病に対しても一般的な疾患と同じであることが記載されている。

そしてこのガイダンスで議論されている点は他の医薬品開発プログラムでも遭遇することがあるが、医学的及び科学的知識、自然歴データ、医薬品開発経験が限られていることが多い希少疾病の状況下ではより対処が困難なことが多いと述べられている。

ガイダンスで紹介されているいくつかの話題について以下に紹介する。

自然歴研究について

そもそも自然歴とは?

自然歴とは、治療薬を処方されない患者が、どのような経過をたどるかを観察・記録しておくことです。 患者登録の内容から、より一歩踏み込んで、治療法開発を視野に入れた観察研究です。

筋強直性ジストロフィー患者会のWebサイト

本題

希少疾患の自然歴は十分に理解されていないことが多く、前向きにデザインされた治験実施計画書に基づく自然歴研究を医薬品開発計画の初期に開始することは非常に重要である。
自然歴研究による疾患への理解は以下の点で治験依頼者の助けとなりうる。

1.疾患の状態の範囲及び重要な疾患サブタイプの特定を含め疾患集団を定義することができる。
これにより疾患の進行が速い患者を選択し、臨床試験で用いる評価項目を開発することができる(予後エンリッチメント)。

2.臨床試験デザインにおける重要な要素である試験期間や症例登録基準を適切に設定できる。

3.感度及び特異度が高い評価項目を開発することができる。

4.Proof-of-concept(POC)、用量選択、潜在的なレスポンダーのスクリーニング(予測エンリッチメ ント)、安全性上の懸念の早期発見、または有効性の裏付けとなるエビデンスに関して有益 な情報をもたらす可能性がある新規バイオマーカーを特定することができる。
または既存バイオマーカーのバリデーションを行うことができる。

また、試験内で同時対照群を設定することが非現実的または非倫理的である場合などの特別な 状況では適切にデザインされた自然歴研究を介入試験の外部対照群として用いることができる。
なお、エンリッチメント戦略の詳細及び適用事例については 3.3 節を参照。

ヒストリカルコントロール群の利用について

そもそもヒストリカルコントロールとは?

ヒストリカルコントロールは既存の臨床試験データや実世界データ(RWD)を新規試験の対照群として設定するもの。

主に以下のような状況で利用が検討される

1.希少疾患や重篤な疾患の臨床試験
2.プラセボ対照群の設定が倫理的に困難な場合
3.被験者数が限られている場合

ヒストリカルコントロールの利用は特に希少疾患やがん領域での臨床試験において増加が予想される。

しかしデータの信頼性や統一されたプラットフォームの構築など課題も残されている。

本題

医療上の必要性が満たされていない重篤な希少疾病に対しては登録されたすべての患者が試験薬の投与を受けて同時対照群(例:プラセボまたは標準治療)へのランダム化を伴わないようなヒストリカルコントロール群の利用に関心が示されることが多い。

しかし同時対照群でないために生じる系統的な差を排除できないことがヒストリカルコントロール群を用いるデザインの大きな問題である。

一般的にヒストリカルコントロールの利用は重篤な疾患の評価に限定され以下の1から3を満たす必要がある。

1.アンメットメディカルニーズが存在すること

2.高い死亡率など十分に立証された客観的に測定・検証可能な疾患経過が存在すること

3.予想される薬物効果が大きく自明であり、介入と時間的に密接に関連していること

しかしながら、臨床経過の予測性が高く客観的に検証可能なアウトカム指標を有する疾患であってもヒストリカルデータでは知られていないまたは記録されていない重要な共変量が存在する可能性に留意が必要である。

なおヒストリカルコントロールの利用に関する詳細及び適用事例 については 3.1 節を参照。

Rare Diseases: Natural History Studies for Drug Development

FDA から 2019 年に発出されたドラフトガイダンス
希少疾病用の医薬品及び生物学的製剤の開発を支援するために用いられる自然歴研究のデザインと実施に関する情報提供を目的としたもの。

Rare Diseases: Common Issues in Drug Developmentでは希少な疾患を対象とした医薬品開発において遭遇する共通の問題を検討しているのに対し、本ガイダンスでは自然歴研究を主題として取り上げている。

このガイダンスでは希少疾患を対象とした医薬品開発の全ての段階における自然歴研究の幅広い潜在的用途や様々な種類の自然歴研究の長所と短所、データ項目、及び研究計画、並びに自然歴研究を実施するための枠組みについて述べられている。

また、試験デザインを試験の目的と整合させて試験結果の解釈可能性を高めるための考慮事項や自然歴研究における患者のデ ータ保護の問題についても論じられている。

承認申請等におけるレジストリの活用に関する基本的考え方

厚生労働省から2021年に発出されたガイダンス

希少疾病のような患者数等の限界から比較試験の実施が困難な場合に薬効を評価する方法としてレジストリデータの活用を促進する目的で作成された。

ガイダンスの適用範囲としては主にレジストリデータを活用する場合が想定されているが過去に行われた治験のプラセボ群等のデータを活用する場合においても参照可能な部分はあるとされている。

このガイダンスにおいては承認申請等にレジストリデータを活用する場合に一般的に考慮すべき点として以下の4点が挙げられている。

(1) 個人情報の保護に関する配慮及び患者の同意
(2) 活用するレジストリデータの信頼性
(3) 活用するレジストリデータの適切性
(4) レジストリを構築する者(レジストリ保有者)との早期からの協議

また、臨床試験においてレジストリデータを外部対照等として承認申請等における有効性及び安全性の評価に活用する場合に考慮すべき内容として以下の5点が挙げられている。

(1) レジストリの患者集団
(2) 評価項目
(3) 評価期間
(4) 統計手法
(5) 自然歴の観察研究のタイプ(前向き,後向き)

なお上記の点は全ての状況で必要不可欠な点を示しているわけでないとされており、活用に当たってはPMDAが実施する対面助言を活用することが強く推奨されている。

Interacting with the FDA on Complex Innovative Trial Designs for Drugs and Biological Products

FDA から2020年に発出されたガイダンス

治験依頼者及び申請者に対し、医薬品または生物学的製剤に関する複雑で革新的な試験デザイン(CID)についてのFDA との対話に関する指針を示す目的で作成された。

このガイダンスでは医薬品及び生物学的製剤の開発や審査における新規の試験デザインの使用、モデリング&シミュレーションに関連する技術的課題に関して治験依頼者がFDAからどのようにフィードバックを得ることができるか、並びに審査のために提出すべき定量的及び定性的情報について論じられている。

CID は複雑なアダプティブ、ベイズ流、及びその他の新規の臨床試験デザインを指すと考えられているが、革新的または新規と考えられるものは時間とともに変化する可能性があるためCID の固定された定義はないとされている。

そしてガイダンスの中ではマスタープロトコル、Leveraging Data From Phase 2 to Phase 3及びSequential Multiple Assignment Randomized Trials (SMARTs) が CID として例示されている。なお,CID の詳細及び適用事例については 3.6.1 節を参照。

Master Protocols: Efficient Clinical Trial Design Strategies to Expedite Development of Oncology Drugs and Biologics

FDA から2022年に発出されたガイダンス

成人及び小児の2つ以上のがん種に対して及び2つ以上の試験薬を同時に評価することを目的とした臨床試験のデザインと実施に関して推奨事項を提供する目的で作成された。

なお,このガイダンスは, First in Human の臨床試験は対象としていない。 このガイダンスでは,マスタープロトコルの種類についての紹介がされた後に,以下の点が議論 されている。なお,マスタープロトコルの詳細及び適用事例については 3.4 節を参照されたい。

1.試験デザインに関する留意点
2.バイオマーカー開発における留意点
3.統計解析に関する留意点
4.安全性に関する留意点

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