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夏の終わりの昼下がり

朝、すこし涼しくなった通勤路を歩く。夏の終わりは、どこか儚い。命が燃えたあとの静けさみたいなものを感じる。あぁ僕たちもきっとこうして緩やかに終わりへ向かっていくのだと、ぼんやり思う。

家事とNetflixだけの日曜だったのに、休ませたはずの体が重い。ブルーな月曜だ。デスクに荷物を置き、コーヒーを淹れ、スケジュールを確認して仕事の続きに取り掛かる。こうしている間にも少しずつ終わっていくな、と思う。今日の業務と、だれかの1日と、そして僕の人生も。

またたく間に午前中が過ぎて、ランチの時間になる。卵入りのスープ春雨にお湯を注いで食べる。
同僚には「OLじゃん」とからかわれるが、好きなのだから仕方ない。おいしくてすぐに食べきってしまう。

そういえば、と思い出す。以前、旅先で食事をしたときに恋人がぽつりと言った。
「あっという間に食べちゃって、もったいなかったね」
よほどおいしかったのか、とてもお腹が空いていたのかのどちらかだと思うけど。好きな感想だった。

過ぎてしまうのがもったいない物事はほかにも沢山ある。夏、線香花火、旅行、コンサート、気心の知れた友達との飲み会、恋人との時間、ソフトクリーム、日曜日。もしかするとこのお昼休みだってそうかもしれない。でも、時間はちっとも待ってくれやしない。ときどき置いていかれるような気持ちになって、焦りを感じてしまう。

窓の外で、夏が終わっていく。僕はあと何回この季節を過ごせるだろう。好きな人たちとどれだけ会えるだろう。限りある時間が今日も過ぎていくなぁと思う。

瞼を閉じたら眠りこけてしまって、それで、僕の昼休みは終わってしまった。そんなもんだね。もったいないけど。

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