理科における知的謙虚さを測定する尺度の紹介

はじめに

本記事は「理科教育 Advent Calendar 2022」1日目の記事です。今回は,下記で発表した「理科における知的謙虚さ」について紹介します。

雲財寛, & 川崎弘作. (2021). 理科における知的謙虚さ尺度の検討. 日本科学教育学会研究会研究報告, 36(2), 21-26.


1.知的謙虚さとは何か

知的謙虚さとは,「自分の知識の限界を認識し,自分の誤りを自覚する態度」のことです。知ったかぶりをせず,他者の考えに耳を傾け,自分の考えが間違っていたならば,変更することにためらいがない傾向にある人は,知的謙虚さが高い人といえます。私達の研究グループでは,この知的謙虚さを高めるための理科授業について研究しています。


2.理科における知的謙虚さを評価する

では,理科という文脈において,知的謙虚さはどのように評価できるのでしょうか。理科で発揮される知的謙虚さを測定するための尺度を作ったのが本研究です。色々と測定方法はあるのですが,今回は心理学で開発されている質問項目をもとにして,項目を理科の文脈に置き換えて作成しました。


3.理科における知的謙虚さを測定する項目

分析の結果,3因子19項目の尺度を作成することができました。それぞれの因子の定義と項目例は以下の通りです。詳細は本文を確認してください。

開放性:正当な理由があれば,他の意見を受け入れ,自分の意見を変更することにためらいがない傾向他者の意見を尊重する傾向
 ・友達の予想の方がいいなと思うと,自分の予想を変える
 ・友達の意見を聞いて,なるほどと思うと自分の考えを変える

一般化への慎重さ:実験結果から一般化を行うと きに慎重であろうとする傾向
 
・みつけたきまりに対して,どんなときでも使えるかを考える
 ・その実験結果から,いえることといえないことを考える

知性と自我の独立:自身の意見と感情を分けて考 えることができる傾向
 ・自分の意見の間違いを指摘されると,嫌な気持ちになる(逆転項目)
 ・自分の考えに対して反対されると,負けた気持ちになる(逆転項目)


4.何に使える?

本尺度を使えば,子どもの理科における知的謙虚さの一側面を評価することが可能です。簡易的な質問紙であるため,あくまで全体的な傾向しか把握することができませんが,授業前後での変容を把握したいときなどに活用することができます。下記ファイルは短縮版(15項目)となっております。もしご興味のある方は使ってみてください。


5.理科における知的謙虚さをどのように育成するのか?

こちらの論文をぜひ参照してください。小6「てこの規則性」の単元で授業を実践しています。


その他

ScienceTalksのくもMさんによる記事とインタビュー動画です。知的謙虚さについて簡単に説明しています。こちらもぜひ参照してみてください!



参考文献

川崎弘作, 雲財寛, & 中山貴司. (2022). 小学校理科における 「法則」 の構築過程に基づく学習指導による知的謙虚さの育成. 理科教育学研究, 63(1), 41-51

雲財寛・川崎弘作(2021)「理科における知的謙虚さ尺度の検討」『日本科学教育学会研究会報告』36(2), 21-26.

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